マンガの描写よりも
もっと汚かった部屋での生活

——お母様は良く見られたいという気持ちが強かったのに、部屋が散らかっていることは気にならなかったんですね。

父が家に出入りしていた中学生の頃までは家もきれいだったし、料理もしていたんです。でも、父と母との関係が悪化して家に来なくなったことをきっかけに、どんどん部屋が汚くなっていきました。外に出るときはきれいにメイクもするし、おしゃれもしていたけれど、家の中は他者評価に関係ない場所だったから荒れる一方でした

家に人を呼ばなくなっても、ガスの点検なんかは定期的に来るじゃないですか。だから、点検の人が入る場所はきれいにしなきゃいけなくて、リビングの散らかったものを袋に入れて、いったん一番奥の部屋に置く、みたいなことから汚部屋が始まりました。袋にギュウギュウに入った靴がバスルームに置いてあるような、本来そこにあるとおかしいものがそこに現れ始めて、家の中にある物の秩序が存在しなくなっていったんです

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母は物を捨てられないところもあったけれど、何よりも「買う」という行為が好きだったので、物はどんどん増え、片付けないから家の中で物が地層化していって汚部屋になる。そうなると、ガスの点検にも居留守を使って人を家に入れない。エアコンやトイレが壊れても修理業者を入れられないから、使えないまま放置するみたいな悪循環に。片付けようと思ったこともありましたが、私一人ではどうにもならないレベルでした。キッチンも物が積み上げられて、最後にいつ使ったかもわからないまな板はゴキブリの通り道。料理をするにも、毎回道具をそろえなくてはならなかったんです。マンガを読んだ友人から「普通、マンガって盛って描くだろうけど、実際の家はマンガより汚いよね」と言われました(笑)。リアルな状態はマンガでも見せられないようなひどい状態でしたから。

(C)ハミ山クリニカ 『汚部屋そだちの東大生』(ぶんか社)

——汚部屋に住んでいることは嫌じゃなかったのでしょうか?

嫌というよりは、トイレやお風呂に入れなくて不便と感じていました。エアコンも壊れていて、家の中と外の温度がほぼ一緒だったので、暑かったり寒かったり、過ごしづらかったんですよね。家全体がゴミなので、もちろんゴミ箱なんて存在しなくて、汚い場所ときれいな場所の区別もついていなかった。だから、学校や飲食店でもマフラーやコートを床に置く癖が抜けなかったり、何十匹ものゴキブリが家中を走り回っているのを見ても何も感じなかった。通常の感覚がマヒしていたんだなと、今考えると恐ろしく思います。