西岸地区の分離壁に描かれた、世界的アーティスト・バンクシーの白い鳩(写真:Shumpei Tachi/MSF)

紛争地で一体何が…いとうせいこうが調べないで現場に行って見たことを全部書く理由

かつて、小説家が戦地に足を運び、作品を生み出していた時代があった。例えば、開高健。あるいは現場で現実を直視してきたライターが、新たなリアリティが宿る小説を書いていた時代があった。例えば、ガルシア=マルケス。

いとうせいこうの『「国境なき医師団」を見に行く』(講談社)シリーズを読んでいると、そんな時代を想起する。そして、ひとつだけタイトルに欠けている言葉があるな、と思う。それは「考える」だ。いとうの紀行文は、行って、見るだけでは終わらない。彼はそこで考える——。

ヨルダン川西岸地区で、イスラエルが建設した分離壁には抗議のグラフィティが並ぶ(写真:横田徹)
 

いとうにとっての取材の意味は、僕のようなノンフィクションの書き手と近いようで、違うところがある気がする。そんな話をすると、Zoom越しの彼は笑いながら、こんなことを言った。

《それは大きな問題ですよ。そもそも、僕がジャーナリスティックなものを書いてもしょうがないと思っているんだよね。だって、僕はその訓練を受けてもいないんだから。だとすると、僕にとって大事なのは、むしろ調べないことにある。新聞記者やジャーナリストならば普通はその土地の政治関係や歴史、それに今の現地の状況を事細かく調べてから現地入りする。でも僕は違う。

ガザ、西地区、アンマン 「国境なき医師団」を見に行く』(講談社)でも書いたように、NHKで子供向け番組の収録を終えてから、そのままパレスチナへ行ってしまう。知らないで行って向こうで驚いたほうが、読者と近いんだよね。昔からよく知っていますなんてありえないから。

現地の人の説明を聞いて初めて、なんとなく聞いたことがある話がより深まってくるし、知らなかったことは驚いたと素直に書けばいい。うわー、そんなことも知らないんだなんて反応は気にしてもしょうがないよ。だって、僕は何も知らないんだから。》

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