2021.03.16

渡辺浩弐×古市憲寿「コロナ禍で『ディストピア』はこんなに身近になった」

渡辺浩弐氏のシリーズ小説である『ゲーム・キッズ』の最新刊『2020年のゲーム・キッズ →その先の未来』(星海社)が刊行された。同シリーズについて社会学者の古市憲寿氏と行った対談をお送りする。

 

身近に感じるディストピア

古市 『2020年のゲーム・キッズ →その先の未来』、すごくおもしろかったです。

「コロナ後」の何十年か先の未来を描いた作品にもかかわらず、「現代社会と隔絶したディストピア」と感じなかったんです。

徹底した監視社会など、20年前の感覚だったら完全にディストピアだったのかもしれない。だけど、いまのコロナウイルスへの対策や中国の社会制度などを見ていると、この本のなかの世界には強度のリアリティがあるように思いました。

渡辺 ありがとうございます。コロナショックは、それによって世界が停滞していることばかりが語られがちですが、逆に進化が加速しているところもあると思っています。いまだから、そうしたリアリティを捉えられるのではないかと思って書いた側面もあります。

古市 今回作品を読んで、渡辺さんの作品のなかに、とにかくアイデアが秀逸な話と、叙情的な切なさにあふれた話の2パターンあると感じました。

たとえば前者でいうと「無観客試合」。そもそもこれまでのスポーツの応援とはなんだったのかということが問い直されるような作品です。球場に行ってただ声を出して応援しているつもりになっていたけど、ネットの世界では推しに課金ができちゃうわけですよね。ただ声を出す行為とは一体何だったのか。その問いかけがとてもおもしろかったです。

渡辺 この作品が古市さんにわかっていただけるのは嬉しいです。スポーツの試合などで応援するのは実はとても虚しいことかもしれない、「僕が声張り上げたからって何の役に立つんだ? 」と思ってしまうことがよくあって、その感覚から書き始めています。

もうひとつ、スポーツの背後にあるのはすごく残酷な何かではないかという点もずっと気になっていました。このところ、スポーツそのものの在り方が問われるような事件が頻発しています。典型的なのはパワハラの問題ですね。パワハラをどうしてもなくせないのは、それがスポーツの本質と結びついているからだと思うんです。

パワハラ問題の最たるものがオリンピック強行だと思います。みんな無茶だと言うけれど、スポーツってそもそも「無茶」なものなんです。人を死の淵まで追いやるようなことをみんなで喜んで見てるわけです。その残酷さも含めて提示したかった。

一方で肉体を壊さないeスポーツというものが出てきたのですが、逆にeスポーツの限界もその辺にあると思います。死の危険がないことです。では求められるのは何かと考えてできたのが、小説に出てくる「dスポーツ」です。

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