「常識」を見極めるための最良の武器

『自由になるための技術 リベラルアーツ』その4
山口 周 プロフィール

リベラルアーツは常識の正体を見破る

自らのコナトゥスを発動させるためには、自分がいま、どんな常識やシステムに囚われているのか、それを見極めることが大切になります。

そのためには、物事を相対化させ、複眼的に見ることが重要ですが、そこで非常に有効なのがリベラルアーツです。

今日、私たちが当たり前の常識だと思っているものでも、歴史的に見てみれば、必ずしもそうではないものがたくさんあります。例えば、低金利は異常だという考え方もその一つです。人類史では、むしろ低金利の時代のほうが長く、社会としても多くの利点がありました。

 

自分たちがいま、常識と考えているものが、一種の自然淘汰として落ち着いた結果のものなのか、それとも効率性や省力性を追求した結果、不自然ながらまかり通っているものなのか。リベラルアーツは私たちを取り囲む常識の正体を見抜く感度を養ってくれるものです。

先の例でいえば、すべてに量的なモノサシを当てて判断することや、株主資本主義などの極端なシングルスタンダード指向などは、日本において当然の帰結として定着した常識ではありません。むしろ本来的には馴染まないものです。

しかし、そのことを見抜けなければ、いつまで経っても翻弄されるだけで、自らのコナトゥスを発揮することもできないでしょう。さらには大きなチャンスを見逃してしまうことにもなりかねない。じつは不自然にまかり通っている常識(=非常識)の中にこそ、イノベーションの種が存在していて、それを超えるようなオルタナティブを提案できれば、多くの人から共感を得て世の中を大きく変えることができるかもしれないからです。

近代文明のあり方を否定して新しい国・社会を築こうとしたキューバの革命家チェ・ゲバラが生涯を通して読んでいたのが、現代の法学者や憲法学者が書いた本ではなく、ギリシャ時代に書かれた古典だったことも示唆的です。長い淘汰に耐えてきた知、あえて自分からは遠く離れた古典を読んで現代を相対化する視点は、未来が見えない現代だからこそ、これからの社会像を模索するためにも、さまざまな意味で“役立つ武器”となるでしょう。

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