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「常識」を見極めるための最良の武器

『自由になるための技術 リベラルアーツ』その4
『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか』『ニュータイプの時代』『ビジネスの未来』など話題書を次々と出し、いまビジネスパーソンに大注目の独立研究者・山口周氏の最新刊『自由になるための技術 リベラルアーツ』が刊行された。
現代に私たちに必須の素養「リベラルアーツ」とは? 4回連載の最終回をお届けする。   

自分は何が好きか、やりたいかを発揮することが、次代を切り開くカギとなる 

一つのモノサシだけで判断を下すという不得意なことをし続けた結果、窒息状態にあるといえるいまの日本にとって、個人のコナトゥスを発揮することが、一つの手掛かりになると思っています。コナトゥスとは前にも説明した通り、「自分が自分であろうとする力」を意味します。

現実的には、国家という大きな単位で政策を論じるうえでは、質的なものもある程度、数値化し、量的なモノサシを当てていくことも必要です。しかし、民間企業、企業の中の部署、家族、個人の生き方というように、個人の裁量を発揮できる身近な単位においても、量的なモノサシが幅を利かせているところに、今日の閉塞感や生きづらさが生まれているのであり、ひいては生産性の低さや競争力の弱さにもつながっているように思われます。

 

年収、偏差値、職業、居住エリア、子どもが通う学校に至るまで、あらゆるものに単一の量的なモノサシを当てて、自分や家族の人生までをも画一的に評価する。その結果、数値化することのできない一人ひとりのコナトゥス、自分が自分らしくいられることや、自分の心が生き生きと躍動する感覚など、最も大切な価値が人生の中で置き去りにされてしまうことも起こりかねないのです。

私自身もかつて身を置いていたコンサルティング業界には、いまでも量的なモノサシだけで周囲と競い合い、そのような消耗戦から抜け出せずに、苦しみながら働き続けている人は多くいます。本来であれば、他人と比較できる量的な指標とともに、一人ひとりに固有のコナトゥスという質的な指標も持ちながら、バランス良く自らの人生をマネージしていくことが、成熟した人間の“知性”だと思うのです。

コナトゥスが活性化し、自分が自分らしく心が躍動する場所に身を置くと、その人はものすごく能力を発揮します。決して個人的な気分だけに関わるものではありません。

一人ひとりのコナトゥスが活性化すると、やる気やモチベーションが湧き、創意も発揮できるので個人の生産性は上がります。そういう人たちが多く集まる会社もまた、生産性が上がるということなのです。逆についても同じことが言え、多くの人がコナトゥスの働かない職場で働いていることが、社会全体の生産性を落としているということでもあるのです。

かねてから日本は、欧米先進国と比べて、仕事を通して生み出される価値そのものが低いと指摘されてきましたが、この問題を克服するためにも一人ひとりのコナトゥスが生かされているかどうかが大きなカギになってくると思います。

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