アメリカの一流大学がリベラルアーツを重視する理由

『自由になるための技術 リベラルアーツ』その2
山口 周 プロフィール

現代の最重要のスキルは人間を深く理解することだ

先日、野田智義さん(特定非営利活動法人アイ・エス・エル創設者)とも、同じテーマについて意見を交わしました。いま、なぜリベラルアーツが重要か――、野田さんの答えは「人間を理解するための知恵を与えてくれるから」というものでした。

不確かな現代を生き抜くうえでは、人間というものをより深く理解することこそが「最重要のスキル」だということで、たいへん腑に落ちるものだと思いました。

私たち人間は、誰しも他人を理解したいと願う生き物です。この人はどういう人だろう? どんなことを考えていて、どういう行動をする人だろう? それは単に知識として知りたいわけじゃなくて、人間として理解したいと思うものです。

 

しかし、それらは出身地や学歴、属性などの客観的なデータだけから得られるものではありません。一人ひとりの「人となり」がいちばんよくわかるのは、その人は何がものすごく好きなのか、何に特別なこだわりを持っているのか、何にいちばん時間をかけてきたのか、あるいは逆に何がものすごく嫌いなのか、何にいちばん腹を立てたのか。そうした喜怒哀楽、つまりその人の心・感情が強く動かされる部分だと思います。

17世紀の哲学者スピノザは、人間の本質を最も指し示すものとして、「コナトゥス」という言葉を用いました。もともとは古代ギリシャ哲学に由来する概念ですが、自分が自分であろうとする力、モメンタム(推進力)といった意味です。

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今日の私たちはビジネスでもプライベートでも多くの人たちと出会うわけですが、誰もが他人との関わり合いをお互いに心地よくコントロールできれば、と思っています。

そこで最高の“武器”になるのが、「他人のコナトゥスを的確に理解する」ということです。相手の人間の本質に関わる部分がわかれば、その人物像が立体的に感じ取れて、場面ごとに相手がどう感じ、何を考え、どんな反応を示すのかということが読めるようになる。いわば、パースペクティブ(見通し)を持って人間を深く理解できるようになるのです。

そう考えれば、今日の私たちが享受できるリベラルアーツとは、人間が何を愛好し、何に深く感銘を受けてきたかという「人類のコナトゥス」の膨大なリストなのだということに気がつきます。

人々が深く心を動かされ、長く広く共鳴を受け続けてきたものが、絵画、音楽、文学、哲学といったコンテンツとして残されてきたわけです。そうした積み重ねから成る歴史は、過去の人間たちが何を欲し、どう行動し、その結果に対してどう反応してきたかという記録にほかなりません。

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