事実婚にもデメリットがある

退職し事実婚をしてから、田中さんはみるみるうちに回復し、今では全快してメンタルクリニック通いを卒業している。夫の北村さんは新しい勤め先でスタートを切っており、田中さんも前向きに求職中だ。

事実婚によって夫婦同姓の強制から解放された2人だが、事実婚にもデメリットがある。遺言書がない場合には相続人になれない年金保険3号被保険者に加入できない(厚生年金保険法では事実婚でも加入可だが従わない企業がある)、扶養控除に入れない(企業によって規定が異なる)などだ。

万一のときのことを考えると非常に不安だ、と田中さんは言う。

「事実婚カップルが将来に備えて遺言書や契約書を交わすのに15万円ほどかかります。なによりも、もし夫が急病で病院に搬送されたときに、家族として手術同意書に署名できなかったり、面会もできなかったりするケースもあると聞きました」

最後に、田中さんと北村さん夫婦はこう訴える。

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「私は『田中』という自分の生来姓が特別好きというわけでも、夫の姓が嫌いというわけでもないんです。ただ、ずっと田中香織という名前で生きてきたから、これからも自分の名前で生きていきたい。夫の姓を名乗るたびに、自分自身ではない別人のような感覚がしたんです。でも、悩んでいるときに同じ思いを抱えている多くの男女とSNSでつながり、彼らに勇気をもらいました。だから同じ問題で悩んでいる人に、あなたはひとりじゃない、と伝えたい」(田中さん)

「法律では男女どちらが改姓してもよい、となっているにもかかわらず、女性のほうが改姓することが常識になっています。しかし、これは男性の問題でもあるのです。もし、パートナーが改姓するのを嫌だと言ったら、理解しようと努めてほしい。パートナーは対等な相手です。結婚改姓については男女の性別にかかわらず、互いに責任があるんです」(北村さん)

内閣府が平成17年に発表した国民生活白書によれば、事実婚を選んだ女性の理由の1位が「夫婦別姓を通すため」だという(※5)。選択的夫婦別姓は、こうしたカップルに選択肢を与えるものだ。それで誰が損をするというのか。この制度に反対する政治家には、法的保障のない事実婚を選ぶという苦渋の決断を強いられているカップルがいる現実に、しっかりと向き合ってもらいたい。