上司からの執拗な“同姓強制パワハラ”

さて、田中さんがいざ結婚して総務部に報告すると、なんと旧姓を使用することはシステム上不可能だと告げられた。以前、旧姓の通称使用が可能と答えた総務部の職員は、医師が可能なため全職員が可能であると勘違いしていたのだという。田中さんは医療従事者ではあるが、医師ではない。勤務先のシステムでは、医師以外はひとりの名前しか登録できないという理由で、戸籍姓(夫姓)しか認めていないと言われた。しかし、医師ができるのだから、“システム”的には可能であることは明らかだった(医師だけ例外である理由は後述する)。

〔PHOTO〕Getty Images

職場においてこうした理不尽なルールが設けられることは珍しいことではない。内閣府が2017年に4,695社を対象に行った旧姓使用の調査によると、旧姓使用を認めている会社は全体の45.7%に留まっている (※4) 。「旧姓使用できる」範囲も、「名札、社員証」が81.5%、「座席表」が75.3%、「社内名簿」が71.3%、「名刺」が70.5%、「メールアドレス」が69.1%など、あやふやだ。当然、健康保険や納税は戸籍姓。二重氏名での煩雑な確認作業が必要なので、職場側も一本化したいのが本音なのだろう。

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電子カルテやシステム上で夫姓を使うことをしぶしぶ受け入れた田中さんは、勤務表や朝の会など、部署内に収まる範囲では自分の旧姓を使いたい、と上司の所属長に伝えた。すると、所属長は「保健所が許さないので無理だ」と即答。納得できなかった田中さんが保健所に確認したところ、職場での旧姓使用は保健所の管轄外で、各医療機関の裁量に任せられていた。

「その瞬間、所属長に対する信頼を失いました。朝の会では、部署の人全員が私を旧姓で呼んでくれるのに、所属長ひとりがわざと私を夫の姓で呼ぶんです。それに、同じ部署の人しか見ないローテーション表ですら旧姓を使用させてくれないんですよ。抗議したら、『混乱するから』と。夫も同じ部署で働いているから、私と夫が同じ姓を名乗るほうがよほど現場が混乱するのに」(田中さん)

田中さんの夫、北村さんも次のように語る。

「『なにひとりで騒いでんの? 規則に従わないほうがおかしいでしょ』と言わんばかりの所属長の態度はパワハラだと思いましたね。それに、ほかの役職者や先輩も誰も僕たちの味方をしてくれなかったんです。ただひとりを除いては――」