夫婦同姓の苦しみ Case04:職場の“同姓強制パワハラ”】

ジェンダー平等を理念の一つに掲げる五輪の担当大臣であり、男女共同参画担当相でもある自民党の丸川珠代議員が、選択的夫婦別姓の実現を阻止する議員グループに名を連ねている事実が報じられ、波紋を呼んでいる。

2016年にも五輪担当相だった丸川氏。2016年、ラグビーの国際親善試合の会場にて、森喜朗氏と〔PHOTO〕Getty Images

世界で選択的夫婦別姓の制度がないのは、日本だけである。国連は夫婦同姓の強制は女性に対する差別かつ人権侵害であるとして、過去3度にわたり、その廃止を日本に対し勧告している。にもかかわらず、選択的夫婦別姓の導入は阻止され続けてきた。

国は、政治家は、夫婦同姓の強制に苦しむ人たちの実情を理解しているのだろうか。結婚して間もなく、ペーパー離婚をせざるを得ない状況に追い込まれた、ある夫婦のケースを紹介したい。

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旧姓併記ができるなら、と思い結婚

札幌在住の田中香織さん(仮名・33歳)と北村康之さん(仮名・28歳)の夫婦は、5年前の2016年、医療機関で働く同僚として出会った。2人は交際を開始し、3年後の2019年8月に結婚を決意。だが、ちょうどマイナンバーと住民票の旧姓併記が同年11月5日から施行されることを知り、結婚を11月に延期した。

田中香織さんは現行の強制的夫婦同姓に対して、特に問題意識をもっているわけではなかったが、ずっと前から自分の姓が変わることに漠然とした嫌悪感を抱いていたという。

このマイナンバーと住民票の旧姓併記の政令は、2019年4月に公布されたときには携帯電話や銀行などの契約手続きを旧姓で行えるようになる、と宣伝されていた。だから、田中さんと北村さん夫婦は各種契約の名義変更をしなくてもいいように、結婚を11月5日以降に延長したのだった。

ところが蓋を開けると、マイナンバーと住民票の旧姓併記は旧姓の“証明”に使えるだけで、旧姓のまま銀行口座などの契約を維持できるかどうかは、個々の機関により対応が異なるという方針に変わっていた。
事実、総務省のHP上でもパスポート・住民票に関する文言は2019年8月にこっそり差し替えられている。しかも、マイナンバーと住民票のシステムの改修に200億円に近い税金が投入されていたというから、納税者として納得がいかない人は多いだろう(※1)

パスポート・住民票に関する文言<変更前>
パスポート・住民票に関する文言<変更後>

驚いた田中さんが早速自分の銀行に問い合わせると、銀行口座を旧姓のままにしておくことはできない、と伝えられた。

「給料振込や各種支払いに使う銀行口座には旧姓が使えない(※2)本当に、このマイナンバーと住民票の旧姓併記は意味がないものだと知り、がっくりきましたね」(田中さん)

それでも、勤務先の医療機関の総務部によると、職場での旧姓使用は可能とのことだったので、婚姻届を夫姓で出すことに田中さんは決めた。

内閣府の世論調査によると現在、結婚している夫婦の96%は田中さんのように夫姓を選んでいる(※3) 。もちろん法的にはどちらの姓を名乗ってもよいことにはなっているが、女性のほうが改姓をすることが社会規範になっているのが、96%という数字に表れている。