なぜ私が「美意識」について考え始めたのか?

『自由になるための技術 リベラルアーツ』その1
山口 周 プロフィール

私は当時、戦略コンサルタントの仕事をしていました。データ分析に基づいたロジックで戦略をつくるといった、まさにサイエンスを拠り所とした仕事で、「正しさ」に基づいて強い事業がつくれるんだと、ドグマのように信じて仕事をしていたわけです。でもふと立ち止まり、世の中を見たときに、「正しさは、もうコモディティだ」と思ったのです。正しさだけだと、もはや当たり前のこと、誰が考えても同じ結論になることしか提案できないと気づいたのです。

私はその後、戦略コンサルタントの仕事を離れたのですが、日本では戦略コンサルタント仕込みのロジカルシンキングという、欧米ではすでに古くなりつつあった手法に追従する企業が続きました。その先には蜃気楼しかない、もはや落ちていくだけなのにという、何とも言えない気持ちでいました。

 

「あなたは、いったいどうしたいのか」と問う時代

VUCA(Volatility=不安定、Uncertainty=不確実、Complexity=複雑、Ambiguity=曖昧、今日の世界の状況を表す四つの単語の頭文字を合わせたもの)の時代と言われるいまでも、多くの企業がコンサルティング会社や広告代理店に巨額の費用を支払って、「何年先にどうなるのか?」という未来予測を依頼しています。はっきり言ってそんな発想が時代遅れなのです。未来を他人に聞くのではなく、「あなたは、一体どうしたいのですか?」と、そろそろ問いそのものを変えなければならない時期に来ているのだと思います。

エシックスの問題にせよ、クリエイティビティの問題にせよ、元をただしてみれば、ある種のみっともなさに対する自覚というか、「美意識」が欠けているのではないかと考えたのが大きなきっかけでした。

『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』では、こうした問題意識をもとに、複雑で不安定な現代社会では、「分析」「論理」「理性」といった、これまで絶対視されてきたサイエンス重視の意思決定や方法論が限界にきていることを述べ、このような時代には、経営の判断にも、自らの「真」「善」「美」の感覚、すなわち「美意識」を鍛え、拠り所としていくことこそが重要だと訴えました。同書が幸いにも多くの読者に受け入れられたのは、私と同じような問題意識を持っている人が多かったからでしょう。

 

  

 

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