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第2次大戦中の日本は、なぜもっと早く降伏しなかったのか?

ソ連のスパイに騙されたノイマン
第2次大戦中の日本は、なぜ速やかに降伏しなかったのか? ラッセルの予防戦争論や、原爆情報を流出させた同僚のソ連スパイ物理学者フックスの裏切りを知って、ノイマンは何を思っていたのか? 発売後たちまち3刷が決まった新刊『フォン・ノイマンの哲学』の一部を、特別公開します!

第1回:コンピュータ、原子爆弾を開発…フォン・ノイマンの天才すぎる生涯

第2回:京都への原爆投下を主張したノイマンの「悪魔性」と「虚無感」

第3回:ゲーム理論を生み出した天才ノイマンは、経済学も根本的に変えた

もはや正気を失っていた日本

第二次世界大戦でいくら考えても理解に苦しむのは、なぜ日本がもっと早く降伏しなかったのかということである。

そもそも日本が中国と東南アジアに侵出し、アメリカとの開戦にまで踏み切った戦略の背景には、当初は破竹の勢いでフランスまで手中に収めたドイツが、イギリスも占領し、いずれはヨーロッパ全域を制覇するに違いないという大局観があった。

軍事戦略的な基盤は、何といっても1940年に調印した「日独伊三国同盟」にあったのである。

ドイツを訪れた松岡洋右(photo by gettyimages)

ところが、同盟国のイタリアは1943年9月に早々と降伏し、頼みの綱だったドイツも、1944年6月の連合軍によるノルマンディ上陸以降は敗色が濃厚になっている。

1945年4月30日にヒトラーが自殺し、5月7日にドイツが降伏した。この時点で枢軸国の日本が勝つ可能性は完全に消滅したのだから、速やかに降伏の道を探るべきだった。

 

ところが、日本の大本営は、アメリカ合衆国・英国連邦(イギリス・カナダ・オーストラリアなど)・ソビエト連邦を含めて、ほぼ全世界に拡がる連合国を相手に、たった一国で「本土決戦」を決定した。背後でソ連に講和の仲介を依頼する動きがあったとはいえ、もはや正気を失っていたのである。

大本営は「国体護持」や「講和を有利にする」ための抗戦だと位置付けたが、結果的には、被害を大幅に拡大させたにすぎない。

この頃になると、当初は非常時出撃だった「特攻」が日常的な出来事になり、補給もなく前線に取り残された兵士たちは「天皇陛下万歳」と叫びながら敵陣に突っ込む「バンザイ突撃」を繰り返した。

アメリカは、これを「狂信的な兵士」による「理解不可能な自殺行為」とみなしたが、日本人兵士が降伏しなかった最大の理由は、東條英機が示達した「戦陣訓」の一節「生きて虜囚の辱を受けず」という「命令」にあったのである。

兵士に限らず、降伏すれば辱めを受けて殺されると洗脳されていた民間の日本人女子は、4月にアメリカ軍が沖縄本島に上陸してくると、次々と断崖絶壁から海に身を投じた。

原子爆弾「東京ジョー」

7月16日の「核実験成功」のニュースは、外国通信社が配信している。日本の大本営も情報を得ていたし、物理学者の湯川秀樹は広島が投下目標であることまで知っていて、友人に広島を離れるように伝えたという証言もある。それでも日本の指導者層は、無条件降伏を考えようとしなかった

8月6日、広島にウラニウム型原子爆弾、9日には長崎にプルトニウム型原子爆弾が投下された。1発だけでは、それしかないと日本が判断して抗戦を続けるから、2発にしたというのが定説である。科学的見地からは、2種類の原材料による爆弾の威力を試したかったという理由もあった。

最終的に「本土決戦」に至らなかったのは、昭和天皇が日本人として最後の理性を振り絞って、あくまで「ポツダム宣言を受諾」し、「無条件降伏する」という強い意志を表明したためである。

もし「本土決戦」になっていたら、国民は、1945年4月に大本営が発行した『国民抗戦必携』に従わなければならなかった。

「敵が上陸してきたら国民はその土地を守って積極的に敵陣に挺身切込みを敢行し、敵兵と激闘し、これを殺し、また兵器弾薬に放火したり、破壊して軍の作戦に協力しなければならない」という狂気の「抗戦命令」である。

この『国民抗戦必携』には、「白兵戦の場合は竹槍で敵兵の腹部を狙って一突きに」とか、「背の高いヤンキーと戦うには、刀や槍をあちこちにふりまわしてはならない。腹をねらって、まっすぐに突き刺せ。ナタ、カマ、熊手などをつかうときは、うしろから攻撃せよ」などの殺害方法が解説されている。

実際には、もし日本が降伏しなければ、8月19日に「東京ジョー」と名付けられたプルトニウム型原子爆弾を東京に投下する予定があった。それでも日本が抗戦を続けたら、札幌から佐世保まで、全国12の都市へ順番に原爆を投下する計画もあった。

大本営の「抗戦命令」が、どれほど時代錯誤で非科学的な妄想だったか、よくわかるだろう。

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