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実験室で培養された「ミニ脳」が解き明かすネアンデルタール人のDNA

分子生命科学で急速に進む古人類学
「今月の科学ニュース」は、カリフォルニア大学サンディエゴ校の研究者が発表した“ネアンデルタール人化された「ミニ脳」”について紹介します。

分子生命科学で急速に進む古人類学

2010年、ドイツのマックス・プランク進化人類学研究所のペーボ氏らが、ネアンデルタール人の全ゲノムを解析することに成功した※1。その結果、ネアンデルタール人のDNAが、私たちのDNAにも存在しており、私たちの祖先と交配していたらしいことがわかった※2

かつてネアンデルタール人は現生人類の直系の祖先と考えられていた。しかし今では、約50万年前に共通の祖先から分かれ、数十万年にわたって共存し、数万年前に絶滅した別種の「ヒト」とされている。

博物館でネアンデルタール人の復元模型を見ると、親戚の集まりにひょっこりやって来そうなくらい身近に思えるが、実際に遠い親戚のようなものだったのである。

博物館で展示されるネアンデルタール人の復元模型 Photo by Lambert/ullstein bild via Getty Images

ネアンデルタール人との接触は、アフリカ大陸で誕生した現生人類が、約5万年前以降にアフリカを出た後で起こったと考えられる。そのため、アフリカ人はネアンデルタール人のDNAを持たないとされてきた。

しかし2020年には、アフリカの人々もネアンデルタール人のDNAを持っていることが明らかになった※3。さらに、現生人類がアフリカ大陸を出る以前から交配していたとする研究結果も発表されている※4

ネアンデルタール人のDNAからは、そういった現生人類とのかかわり以外にも大切なことがわかる。DNAは生命の設計図といわれる。ネアンデルタール人のDNAのはたらきを調べれば、現生人類が彼らと異なる進化の道筋をたどった理由がわかるかもしれない。

2020年8月、ドイツのマックス・プランク進化人類学研究所の研究グループは、「ミニ脳」に含まれるネアンデルタール人の遺伝子の影響を調べる手法を開発したと発表した※5

「ミニ脳」といっても、本物の脳ではない。本物の脳の構造や機能の一部を再現した、「脳オルガノイド」と呼ばれる脳細胞のかたまりだ。iPS細胞を培養して作成され、大きさは数ミリだという。

研究グループは、ネアンデルタール人由来のDNAを含むiPS細胞から脳オルガノイドを育てて、脳の発生段階でネアンデルタール人のDNAがどのように活動しているかを調べられることを確かめた。

やわらかい組織である脳は、骨と違って化石に残らない。「脳オルガノイド」を使えば、地球上から消え去ったネアンデルタール人の脳の発生を細胞レベルで調べて、ヒトの脳と比べられる。

とはいえ、これは「実験室でネアンデルタール人の脳を作成!」というSFのような話ではない。研究チームのリーダーであるキャンプ氏は、「ミニ脳」の細胞はネアンデルタール人の細胞ではなく、あくまでも「ネアンデルタール人のDNAを持っているヒトの細胞」だと強調する※6

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