PS5でも話題!人の触覚を惑わせる奥深い「振動」の世界

震える薄膜を実現したMEMSとは何か
西田 宗千佳, ブルーバックス編集部 プロフィール

意外な事実

ちょっと“意外なこと”がある。

小林さんは「もともとは振動デバイスをつくろうという目的で研究していたのではなかったんです」と明かす。

小林さんと竹下さんは、ともに産総研でMEMSデバイスの研究をしていた。その過程で実用化できたのが「圧力センサー」だった。MEMSデバイスの上に力がかかると、そこで電力に変化が生まれる。それを利用して、道路の補修状況をモニタリングするセンサーだ。

そこに、共同開発元であるオムロンから1つのアイデアがもたらされた。

「振動や圧力を検知できるなら、逆に振動・圧力を与えるデバイスとしても使えるのではないか」と。

この点については、すぐにピンと来る人とそうでない人がいるかもしれない。スピーカーは音を伝えるものだが、同時に「マイク」にもなる。電力をかけると振動して音が鳴る一方、逆に声=空気の振動を伝えると発電し、電気信号のかたちで取り出せるからだ。

MEMSのセンサーもこれと同様に、圧力をかけると電気信号が生まれ、逆に電力をかけると「震える」のである。

人間にとって「振動」とはなにか

MEMSを使った振動デバイスは、まだ開発途上だ。

「伝えられる振動の周波数や強さにはまだ改善の余地がある」(竹下さん)というが、一方で生産については、「試作も一般的なファウンドリー(半導体製造請負事業者)にお願いしているくらいなので、量産のハードルは小さい」(小林さん)という。腐食対策のための封止は必須で、現段階では樹脂のフィルムにはさんでいる。だが、実際に使う場合には、「機器の表面に貼りつけてから樹脂で覆う、といったつくり方もできるだろう」(小林さん)と予測されている。

また、「振動する」ことと、その振動を「人がどう受け止めるか」は、また別の話でもある。竹下さんは、「振動でどういう“錯覚”を与えられるのか、ある特定の感触を与えるにはどんな振動を与えるのがいいのか、といったことに関する研究は、これから進めていきたいテーマです」と話す。

この分野の研究が進めば、さまざまに振動するデバイスによって、私たちはこれまで体験したことのない「新たな感覚」を体感できるようになるかもしれない。

新たな「ウェアラブルデバイス」の可能性

将来的な可能性として、竹下さんは次のような展望を語る。

「10年程度先の話だとは思いますが、人をリラックスさせる振動を生み出す、体に貼れるデバイスのようなものもつくれるかもしれません。MEMSの振動デバイスは非常に軽いので、ウェアラブルデバイスに組み込むことができます。体に貼ったり腕につけたりすることで、温熱と組み合わせてリラックスをもたらす機器をつくれたら面白いですね」

薄型かつ半導体の技術で製造できるMEMSであるがゆえに、従来は不可能だった新たな使い道を見出すこともできるようになるのだ。

産業技術総合研究所センシングシステム研究センター ハイブリッドセンシングデバイス研究チーム

  PROFILE 
【写真】プロフィール・赤松さんと小林さん

国立研究開発法人 産業技術総合研究所 
センシングシステム研究センター ハイブリッドセンシングデバイス研究チーム

小林 健(こばやし・たけし、写真右)研究チーム長

竹下 俊弘(たけした・としひろ、写真左)主任研究員

私たちは、MEMS技術を用いたセンシング・アクチュエーションデバイスの開発により、ヒトのバイタルサインや筋力・インフラ構造物の劣化状態などをモニタリングするシステムの実現を目指し、研究をおこなっています。

今回の研究では、このMEMS技術を応用し、世界最薄・最軽量のハプティクス用フィルム状振動デバイスの開発に成功しました。薄く、軽いという特徴を活かすことで、多数の振動デバイスを密に配置することが可能になり、これまでにないような多彩な皮膚感覚をデザインすることができるようになります。今後は、開発したデバイスの振動強度の向上や耐久性改善など、実用化を目指した取り組みをおこなっていく予定です。

「薄く・軽い」を武器に、ユーザーのみなさんがあっと驚くようなモノづくりをおこなっていけたらと考えています。

取材協力:

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