PS5でも話題!人の触覚を惑わせる奥深い「振動」の世界

震える薄膜を実現したMEMSとは何か
西田 宗千佳, ブルーバックス編集部 プロフィール

「1ミクロンの動き」を検知する人間の指先

だが、竹下さんたちが開発中の「フィルム状振動デバイス」は、そうではない。物体にそのまま貼りつけられるということは「手に直接触れる」ということであり、より微細な振動を感じさせられることにつながる。

人間の手、特に指先は非常に繊細な動きを検知できる。小林さんは、「人間の指先は、およそ1ミクロンの動きでも把握できます。このデバイスの場合には、低電圧でも約10ミクロンの幅で動くため、微細なだけでなく、十分に強い振動として把握できると考えています」と話す。

さらに、「フィルム状振動デバイス」にはもう1つ特徴がある。小さな振動デバイスを「配列(アレイ化)」して並べることで、振動させる面積や強さのコントロールがしやすいのだ。いくつのデバイスを振動させるかで、強さや場所を変えられるのだが、実験でも、その違いを人が判別できることがわかっている。

【写真・表】アレイ化されたデバイスと、検知テストの結果アレイ化されたデバイス(上の写真)と、アレイ化して検知のテストをした結果(下の表)

小林さんによれば、「現状では、最小で1mm×5mmくらいの領域をつくり、それを組み合わせられる」という。こうした特質は、いままでの振動デバイスにはない特徴といっていいだろう。

【写真】小林さん小林健さん

新しい振動デバイスを生み出した「MEMS」とはなにか

なぜこのようなことが実現できたのか?

理由は、このデバイスが使っている技術にある。

この振動デバイスは、「MEMS」という技術でつくられている。MEMSとは、「Micro Electro Mechanical Systems」の略称で、部品単位で組み立てるのではなく、半導体の製造プロセスを使ってつくる集積化したデバイスだ。

応用範囲の広い技術で、インクジェットプリンターのヘッドやスマートフォンの中に入っている加速度センサー、プロジェクターの中に入っている精密反射鏡など、微細な構造のものを低価格で量産するのに向いている。フィルム状振動デバイスは試作段階なので、現状ではまだ安価に作製できているわけではないようだが、量産されていけば、価格は急速に下がっていくだろう。

構造的には圧電デバイスに近く、どのような電圧をかけるのかで動きが変わる。一方で、圧電デバイスは「高い電圧をかけなければいけない」(竹下さん)のが課題だったが、MEMSを使った振動デバイスはより低い電圧ですむ。そのため、「消費電力はおそらく、かなり低くできるでしょう」と竹下さんは説明する。

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