静岡県沖の駿河湾で、全長が1mを超す新種の深海魚が見つかった。海洋研究開発機構(JAMSTEC)などの研究チームが、今年1月に論文を発表した。
新種の魚は、その巨体から「ヨコヅナイワシ」と名付けられた。小型の魚ならともかく、1m以上の「巨大魚」の存在が今までまったく知られていなかったことに、研究者たちは驚きを隠さない。
突如、我々の前に姿を現したヨコヅナイワシとは、いったい何者なのか?
「異様な姿」に船上は騒然
船のデッキに引き上げられたその巨大魚は、青黒く光っていた。体を手でつかもうとすると、大きなウロコがベロッとはがれ落ちた。世界でまだ誰も見たことのない、「未知の巨大魚」との遭遇だった。
「シーラカンスが釣れたのか!?」
異様な姿の魚を目にした船員たちが、驚きの声を上げた。神奈川県立海洋科学高校所属の実習船「湘南丸」の船上は、たちまち騒然とした雰囲気に包まれた。

「シーラカンス」という言葉を聞いて、この船に乗っていたJAMSTECの上席研究員・藤原義弘さんは、慌ててデッキに駆けつけた。
近づいてみると、全体に黒っぽい色の魚だが、頭部やウロコはライトブルーだとわかった。すぐに、「これまでに見たどの魚とも、ぜんぜん違う」ことに気づいたという。

「駿河湾のヌシ」を釣り上げた!
ヨコヅナイワシは、「深海延縄(はえなわ)調査」によって捕獲された。海底に設置する部分だけで4~6kmもある延縄で、400本の針がついている。生のサバをエサにしておびき寄せた。
一連の調査で、駿河湾の水深2171~2572mで計4匹を捕獲することに成功。大きなものは全長が約1.4mもあった。10歳の子どもの身長とほぼ同じサイズである。
「“駿河湾のヌシ”を釣っちゃった……」
JAMSTECの准研究主幹・土田真二さんの感想だ。いちばん重いものは、体重が約25kgに達する。
捕獲された個体は、X線CTを使って、骨の数や骨格の立体構造などが詳しく調べられた。数少ない貴重な標本を傷めることのないよう、できるだけ損壊せずに、かつ正確なデータを得るのが狙いだ。


こうした調査や分子系統解析の結果から、「セキトリイワシ科」の新種であることが判明した。この科の魚は、頭にウロコがなく、ツルツルしているのが共通した特徴の1つだ。
「ヨコヅナイワシ」という標準和名を発案したのは、調査チームの一員でJAMSTEC准研究副主任の河戸勝さんだ。セキトリイワシ科の魚たちは世界で19属98種が知られているが、その体のサイズは通常、35cmほどしかない。
こうした「関取」たちに比べると、「ヨコヅナイワシ」の1m超というサイズは飛び抜けた大きさだ。そのことから、「横綱」というネーミングを思いついたという。
学名は「Narcetes shonanmaruae」。種小名は調査で活躍した「湘南丸」にちなんでつけられた。新種報告の論文は、英科学誌「サイエンティフィック・リポーツ」(https://www.nature.com/articles/s41598-020-80203-6)に掲載された。