春は鳥のさえずり
夏は水のせせらぎ
秋は虫の音
そんな花鳥風月を楽しみにしての移住暮らしが、実は、静寂の中では「騒音になってしまった」。
Aさんは都会時代の生活をこう振り返る。
「今、思い返すとね、都会っていうのは騒音ばかりなんで、逆に些細な音が気にならない、そんな生活だったんですよね。都会人の生活にはむしろ静寂がないから、耳や身体が音になれてしまっていて。でも、森のなか、山のなかで静かな暮らしに入った途端に、たとえ綺麗で小さな音でも、大変な騒音ほどに大きく響いてきてしまうっていうことなんでしょうね」
二重サッシの室内はほぼ無音だ。今は、趣味のクラシックを気の向くままに楽しむ毎日だ。
「田舎暮らしと言ってもね、結局、都会で生きてきた人間は、田舎でも都会暮らしをすることでしか満足できないのかもしれないな」
自嘲気味にそう言って、小さく笑う。