テスラは大手自動車メーカーに売り飛ばされるかもしれなかった

テスラモーターズという革命(4)
アシュリー・バンズ プロフィール

次は誰が血祭りに上げられる?

かたやマスクは事業譲渡を前提とした資産価値向上には関心がなかった。自動車業界に風穴を開け、電気自動車の価値を世の中に広めたくて始めた会社だ。新しいアイデアや計画に華麗に飛び移るシリコンバレー流とは違い、じっくり深掘りしたいのだ。

 

路線の違いを憂慮したマスクは、一か八かの賭けに出ることにした。2007年12月3日、マスクは新CEOにジーブ・ドローリを起用する。かつてコンピュータメモリーのメーカーを立ち上げ、後にチップメーカーのAMDに売却した経験があるが、ある意味でマスクの「傀儡政権」といえるCEOだった。

その一方、マスコミの悪評をなくそうと、インタビューにも精力的に応じ、2008年初めの出荷を約束した。さらに、各地にショールームを設置し、展示会も開催して消費者に直接メッセージを伝えた。展示会ではマスクがじきじきに聴衆に訴えかける。予約客の間からは大幅な納車遅れの文句も出ていたが、それでもマスクの情熱を感じ取り、製品にかける熱意に理解を示した。その証拠に、前金の返金を求めた客はほんの一握りにとどまっていた。

何か緊急事態が発生すればマスク自らが動き出す。こうした対応は、スペースXでも同じだった。カーボンファイバー製ボディーパネルのような問題が表面化すれば、マスクが直接最前線に立って指揮する。自家用ジェットで英国に飛び、新しい工作機械を探し出して自ら工場に届け、生産の遅れを回避した。

マーケティング面では、マスクは毎日グーグルでテスラの話題を検索していた。もし都合の悪い記事でも見つけようものなら、自社の広報部門にハッパをかけて何とかして「訂正」させようとした。むろん、広報部門にマスコミを動かす権限などないのだが。

身内にも容赦なかった。ある社員が妻の出産に立ち会うためにイベントを欠席したことがあった。マスクは即座にこの社員にメールを送りつけた。「言い訳にならない。本当にがっかりした。何を優先すべきか考えたことがあるのか。私たちは世界を変えようとしているし、歴史を変えようとしている。やるのか、やらないのか、どちらかはっきりしてもらいたい」

マーケティング部門の人間がメールで文法ミスなど犯そうものならクビだ。ある元役員は「異常なほど威嚇的になることがありますが、本人もどこまでやっていいか加減がよくわかっていないんです。だから次は誰が血祭りに上げられるか、よく噂していましたね。たとえば会議で『どうしてこれを選んだ?』と訊かれて、『これが一般的ですから』なんて答えたら、『二度とそんなこと言うんじゃねえ』って、その場で会議室からつまみ出されますよ。そうやってボコボコにしますけど、すぐにクビにしないのであれば、信頼できる社員かどうかを試してるんですよ。自分と同じくらい型破りな人間かどうか知りたいんです」

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