快適性にこだわるマスク、悪夢のようなコスト。衝突は起きるべくして起きた

テスラモーターズという革命(3)
アシュリー・バンズ プロフィール

マスクとの長年の確執

だが、この程度のことで自らのイメージをがらりと変えることはできない。多くのエンジニアの間には、CEOとしてのエバーハードの能力はもはや限界という思いが依然として残っていた。

 

一方、古参の社員はエバーハードの技術的なセンスを常に評価していた。実際、テスラをゼロから類い稀な技術者集団に育て上げたのは彼の手腕によるところが大きい。だが、残念ながら、技術以外の面に配慮が行き届かなかったのも事実だ。研究開発段階から量産段階へ会社を導く能力に疑問符が付いていた。

法外な製造コスト、欠陥トランスミッション、非効率な下請け業者などの問題が重なり、テスラの雲行きが怪しくなっていた。熱狂的な客はすでに多額の前金を払って納車待ちだった。だが、納車予定日がずるずると延期になるばかりで、一度は胸をときめかせたファンが、テスラ、そして経営者のエバーハードに背を向け始めた。ライアンズが言う。

「不吉な予感はしていましたよ。会社を起こした人間が必ずしも長期的に組織のリーダーにふさわしいとは限りません。それはみなわかっています。ただ、まさにそういう状況が目の前で起こると、本当に厄介なんですよ」

エバーハードとマスクは、クルマの設計面を巡って長年衝突があったが、たいていはうまく乗り越えてきた。バッテリーの技術やそれが世界に与えるインパクトについても、基本的にビジョンを共有していた。だが、どちらも相手の愚かな言動を見て見ぬふりができないタチだ。

ワトキンスがあぶり出したロードスターのコスト問題をめぐって悪化した2人の関係は修復のしようがなかった。マスクには、エバーハードの経営がでたらめだったために、部品コストの増加を見逃したように見えた。取締役会を欺き、事態の深刻さを覆い隠したエバーハードの行動は背信行為だというのが、マスクの見立てだった。
ある日、街を歩いていたエバーハードの携帯電話が鳴る。電話の相手はマスク。わずか一言、二言の会話で終わった。CEO解任の通告だった。(翻訳 斎藤栄一郎)

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