快適性にこだわるマスク、悪夢のようなコスト。衝突は起きるべくして起きた

テスラモーターズという革命(3)
アシュリー・バンズ プロフィール

どうみてもおかしなコスト計算

人件費のコスト削減は悪くはなかった。スタンフォード大の新卒者を年収4万5000ドルで使っているのだから、まずまずだ。だが、設備や材料のコストは悪夢としか言いようがなかった。材料の記録は自社製のソフトで処理していたが、使いにくいせいか、利用している社員とそうでない社員がいた。ソフトを使った社員は、たびたび大きなミスをしていた。

 

まず使い方がまずかった。試作車の部品にかかったコストをもとに、その部品を大口購入した場合に何割くらいディスカウントがきくかを予想してコスト計算を行っていたのだ。実際に調達先が承諾する価格かどうかを商談もせずにである。

ともかく、このソフトがはじきだしたロードスターのコストは1台あたり6万8000ドルで、それでもテスラに3万ドルの利益が入ってくると計算されていたという。どうみてもおかしいのだが、これが取締役会に報告されていた数字だったのだ。

2007年半ば、ワトキンスは調査結果の報告にマスクのもとを訪れた。マスクは悪い数字が出てくることを覚悟していたようだ。「実は、申し上げにくいのですが……」ワトキンスが切り出す。その表情から、「実は20万ドルもかかっていました」と言われたらどうしようかと、マスクは固唾を飲んだ。だが、出て来た数字は6万8000ドル。

いや、これ自体、ひどい数字に違いないのだが、マスクはむしろ拍子抜けしたのだろう。生産工程を簡素化し、売り上げが伸びていけば、クルマの価格は大きく下がるはずと自信をのぞかせた。何しろ、テスラとしては、「8万5000ドルくらいで売りたい」としか計画していなかったのだ。

「完全な量産に入っても、17万ドルなんて言われたら、さすがに異常ですけど。だって全体の3分の1は完成してもいないんだから、そこで騒いでも仕方ないですよ」それが当時のマスクの心境だったという。

この混乱状況を脱しようと、CEOエバーハードも心機一転を誓う。そのころ、環境保護技術の分野で有名なベンチャーキャピタリスト、ジョン・ドーアの講演を聴く機会に恵まれた。ドーアは「自らの財産と人生を投じて地球を温暖化から救いたい、それが子供たちの世代のためにできることだから」と訴えた。

感動したエバーハードは、すぐにテスラの本社に取って返し、社員の前で同じ思いを伝えた。100人ほどの社員を前に、エバーハードは自分の娘の写真をプロジェクターで大きく映し出すと、「私が何を言おうとしているかわかりますか」と社員に問う。ある社員が「この子にロードスターを運転してもらいたいか」と答えた。「いや、そうじゃない」とエバーハード。

「この子がクルマを乗り回す年齢になるころには、クルマは、現在の我々の常識とはまったく違うものになっているはずです。電話もそうでした。もはやコードがついて壁にかけてある機器ではありません。そういう未来を作ることができるのは、あなたたちしかいない。だから我々はこのクルマを作っているのです」そして特に重要なエンジニアらに感謝の念を表し、全員の前で労をねぎらった。

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