快適性にこだわるマスク、悪夢のようなコスト。衝突は起きるべくして起きた

テスラモーターズという革命(3)
アシュリー・バンズ プロフィール

エバーハードの経営手腕に疑問符

テスラは海外でも問題を抱えていた。最も若手の元気なエンジニアチームをタイに派遣し、バッテリー工場の設立を任せていた。

 

現地の提携先企業は熱心ではあったが、必ずしも生産能力が高いわけではなかった。テスラのエンジニアチームは、現地に飛んだら最先端のバッテリー工場の建設を管理するよう指示されていた。だが、現地で見たものは工場どころか、コンクリートの基礎の上に柱が何本か立ててあって屋根があるだけの掘っ立て小屋だった。バンコクからクルマで3時間。灼熱の気候とあって、たしかに他所の工場も多くは外から丸見えの似たような建屋だった。結局、提携先企業が資金を出して、温度管理の可能な施設に作り替えることになった。

まだまだ試練は続く。現地労働者に電子機器の扱い方を教え込まなければならない。そのトレーニングに気が遠くなるほど膨大な時間がかかった。最初は目にも止まらぬ速さで開発が進んだバッテリーだったが、ここに来てガクンとスピードが落ちてしまった。

クルマを作る全工程から見れば、バッテリー工場はサプライチェーン全体のごく一部にすぎない。ボディーパネルはフランス、モーターは台湾で生産する予定だった。バッテリーの最小構成単位となるセルは中国から買い付け、タイに輸送してバッテリーパックに仕上げる計画だった。

バッテリーパックは劣化を防ぐために良好な条件下で保管する必要がある。しかもできれば最短期間に抑えるほうがいい。このため、バッテリーパックに仕上がったところで、なるべく早く港に運び、英国に輸送して税関を通過しなければならない。その後、ロータスでボディーを作り、バッテリーパックを取り付け、南米最南端のホーン岬まわりでロサンゼルスに到着する手はずだった。この流れだと、テスラは、輸送されてきた積荷全体に対して一括して料金を支払うため、6~9ヵ月が経過しないとパーツ単位での売り上げがつかめない。

生産上の問題を聞きつけたマスクは、エバーハードの経営手腕に疑問を持つようになり、ある人物に対応を相談する。テスラに投資しているベイラー・エクイティは、生産業務の改善を得意とする投資会社だった。投資の決め手は、テスラのバッテリー技術やパワートレーン技術にあった。たとえ販売不振で行き詰まったとしても、最終的には大手自動車メーカーがテスラの知財獲得に動き出すに違いないと計算したのである。

ともかく投資先の経営状態を調査して指導するため、ベイラーはティム・ワトキンスをテスラに送り込んだ。そのワトキンスがほどなくしてゾッとするような結果を持ってくる。ワトキンスは大学で産業ロボット工学や電気工学を専攻した経歴の持ち主だ。問題解決の天才として名を馳せている。そのワトキンスが数週間かけてテスラの社員らに聞き取り調査し、サプライチェーンを流れるパーツ1つひとつまで分析したところ、ロードスターの生産コストが見えてきた。

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