髪を染めたいというから準備したが…

義母は家に来てから数回、近所の美容室で髪を整えていた。街の小さな美容室だが、若い店主の腕はよく、客あしらいもうまいので、私も通っている店である。
ところが、1、2回行ったところで義母は他の店がいいと言い始めた。店主がツンケンして感じが悪いというのだ。思い当たる節はなかったが、人間には相性というものがあるから仕方がない。

彼女は彼女なりに他を当たり、電車でひと駅先にある美容院に行ってみたらしい。しかし、1回シャンプー・カット・ブローまで体験してから「高い!」と思ったのか、もう行かないと宣言した。

そしてある日、「容子さん、髪はどこで染めているの?」と尋ねてきた。私は好きなときに安く染めたいので、自分で染毛剤を買ってきて風呂場で染めていた。そのように答えると、「私もそうしようかしら。容子さんがやってください」と頼む。簡単だから自分でやればいいのにと思ったが、熱心に頼んできたので引き受けることにした。

義母の髪の毛を染める…自分の毛を染めるのならともかく、ちょっと緊張が走った、が…Photo by iStock

染毛剤を買い、まずひじの内側でパッチテスト。穴を開けたビニール袋を被らせて染め、風呂場の脱衣所にある洗面台に座らせて流そうと計画した。ここでこうして、こういう格好で流しますよ、と説明すると、それでお願いしますと頭を下げられた。
準備を始め、さて染めようかと声をかけたときである。

「やっぱりやめておくわ」

えええええっ! うそー。全部了解済みで準備したのに。
何が嫌だったんですかと尋ねると、うーん……と、薄ら笑いを浮かべて言葉を濁した。無理やり勧めるわけにもいかず敢え無く中止となった。染毛剤はまだ混ぜていなかったから、私が使うことにした。

このように、義母は人の好意を直前で裏切ることが多かった。こちらからの押しつけではない。本人から頼み、こちらがあれこれ準備をしたところで、突然やめたり断ったりしてしまうのである。

天を仰いで嘆息するようなことは頻繁に起きたが、実は、こういう態度に悩まされていたのは、私だけではなかったのだ。