【スナック千代子へいらっしゃい #16 アイツは突然やってきた】
恋もお産も、出会いは突然
6年前の2月、アイツ(息子)にはじめて出会った日の話です。
里帰り出産で、毎日あてもなくマタニティウォーキングをしていた私。思えばその日はなんだかいつもとは違う何かがありました。うまく言葉にはできないのだけれど、胸騒ぎのような何か。
その日の夜は妙に冷え込み、早めに床についた私は、お腹からのノックに気付いて目覚めました。午前2時。今まで経験したこともないほど激しい胎動、続いて何かが割れる音が鳴りました(破水の時って「パン!」って音がするんですね)。予定日の20日も前なのに、アイツは私に会いに来たのです。
そこからは怒涛の展開でした。
母を起こして外に出ると、車の窓がびっしりと氷で覆われていてすぐには車を動かすことができず、お湯で氷を溶かしている間にも生まれそうな気配がどんどん近づいてきます。
そして陣痛の痛み! すでに5分間隔。座っているだけでも死にそうした。産院に到着したときにはもうひっきりなしに陣痛。前日の健診で、せっかく4Dエコーを見せてもらったのにうまく顔が見えなくて少し残念に思っていたら、先生が「まあすぐ会えるし」って言ってくれたけれど、本当にすぐだった。
もしかしてそのせい? なら、もう本物見せてあげよっかって? そんなことをぐるぐる考えながらひたすら痛みに悶絶し、気づけば分娩台。このあたりからもう記憶も途切れ途切れです。そして忘れられないあの一言――。
「横峰さん全開です!」
なんの合図だと笑ってしまった瞬間、今までのそれとは完全に違う凄まじい痛みが全身を貫き、「ポン」という音とともにアイツがやってきました。
慌ただしく、壮絶で、永遠に続くかのように思えた時間も、時計で確認してみるとたったの3時間。我が子との出会いは衝撃的で、情熱的で、恋愛ドラマみたいだな……。そんなことを考えていて出来上がったのが、漫画での冒頭の千代子のセリフ。夫婦のお気に入りの思い出話です。