「124ページ開いて。関東大震災の箇所を読んでもらおうかな。きょうは13日だからタナカさん!」
大きな黒板を背にした40代後半ぐらいの女性がとなりの子を指した。
「はい! 1923年(大正12年)9月1日、関東地方南部を震源とした地震が発生しました」
はきはきとした声が響く。
周りを見回す。3~40人の子どもたちが学習机に座っていた。後ろを振り返る。 蜂巣みたいなロッカーに黒と赤のランドセルが入っていた。前を向く。だれもいない。おかしい。さっきまでいたはずなのに。
「コツン」
軽快な音が鳴った。痛みが頭に広がる。
「きょろきょろしない」
ささやき声がする方向を見た。黒板の前にいた彼女がいる。よく見たら高学年のときの担任だ。「あたらしい社会」と太いゴシック体で書かれた表紙の本を持っていた。背表紙で叩かれたらしい。
また注意されないよう、教科書を熱心に読むふりをした。
「震災後、『朝鮮人が井戸に毒を入れた』などの噂が流されたため、朝鮮半島や中国から来たひとたちが数多く殺されました」
「はい。そこまで」
黒板の前にふたたび立った先生がわたしたちを向いた。
「いまから100年近く前、わたしたちの住む県で虐殺事件が起こりました。見沼の常泉寺には犠牲になった朝鮮のひとのお墓があります。おなじ過ちを繰り返さないよう、しっかり学ばなければいけません」
淡々としているが、どこか熱を帯びていた。