美容師しか知らない人生への失望

体力や精神力をすり減らしてトップを目指す働き方から、無理をしない年相応の働き方へ。好きな仕事をしながらも時間と心にゆとりのある生活は、もうすぐ50歳を迎える梅沢さんにとって、ちょうどよい心地よさなのかもしれない。しかし、今でこそこの生活を楽しめているが、移住当初は大きく自己肯定感が下がってしまったという。

たまたま取材後に訪れた筆者知人の日本人男性。こういった世間の狭さもヘルシンキならでは 撮影/小林香織

「サロンオーナー時代、原宿から世界を見下ろしているような感覚があり、何でも知ったような気になっていましたが、異国で暮らしてみたら、実は何も知らなかったと気づかされました。

流暢にフィンランド語を話し、フィンランド社会になじんでいる日本人が現地にたくさんいること、役職にかかわらずフラットな関係性を大事にする働き方、森への散歩やサウナが生活の一部である文化、子育てや仕事だけでなく政治の世界もジェンダーレスであるなど、未知の事実ばかりでした」

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美容師一筋で30年積み上げてきたスキルと経験は確かな価値であり、結果として多くの人の役に立っている。ただ、自分が生きてきた世界とは明らかに異なる場所に身を置いてみると、「自分の人生はこれでよかったのだろうか」という失望のような思いが湧いてきたという。

「美容師としての実績はあるけれど、人生を俯瞰して見ると、もうすぐ50歳なのに何も知らない自分がすごくちっぽけな存在に見えてしまって。若い頃にいろいろな経験をしている人がすごくうらやましく思えました」