また、新境地である。映画『すばらしき世界』で、長澤まさみさんが演じたのは、元殺人犯の出所後の姿を番組のネタにしようと画策するやり手のTVプロデューサー・吉澤。一種のヒール役ではあるが、「ヒール役らしい正論を、誰に喋ってもらえればパワフルに輝いたインパクトを残せるかを考えたら、長澤さんしか思い浮かばなかった」と西川監督は語る。2人がお互いを意識したきっかけから、現場のエピソード、お互いの仕事ぶりに対する印象など。長澤さんは俳優ならではの観察眼で西川監督と映画の魅力を描写し、西川監督は、長澤さんとの心の交流について独特の視点で語った。

実は初めて仕事をしたという二人の会話ははずみ… 撮影/山本倫子

10代の時に見た監督の姿が忘れられない

――まずは、お二人の接点から教えていただけますか?

長澤 私が、たしか……まだ10代だったと思うんですが、映画賞の授賞式に出席して、会場のホテルを事務所の車に乗って出ようとしたとき、ふとエントランスの車寄せを見たら、西川さんがタクシーを待っていたんです。本当に一人で……。

西川 あ、日本アカデミー賞のとき? 

長澤 そうです。会場は新高輪プリンスでした。授賞式で、壇上に立ったオダギリ(ジョー)さんが、「俳優陣は、つい西川監督のいうことを聞いちゃうんです」みたいなコメントをされているのを見て、「なんかみなさん監督にメロメロな感じだな」って(笑)。

西川 そんなことないよ(笑)

長澤 でも、授賞式での和気藹々とした雰囲気とは違って、タクシーを待ちながらすっと立っている西川さんが、孤高の人に見えたんです。もう10年以上前のことで、当時は女性監督ってそんなにたくさんいなかったし、映画ってなんだかんだで男社会なのに、ちゃんと女性らしさも品もある、その孤高の感じがすごくカッコよく見えた。以来、とても気になる存在ではあったんですが、作品を見るたびに、「でも、私は、西川さんの作品ぽくないよな〜」ってずーっと思ってました(笑)。

西川 ……というより、そもそも若い女の人が出る映画が少ないので。激戦区なんです。

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長澤 是枝(裕和)さんの『海街diary』に私が出演したときに、西川さんが現場にいらっしゃって、初めてちゃんとご挨拶して、目を合わせた記憶があるんです。そのときに、「あ、あのタクシーを待っていた感じと全然変わってない」って思った。

西川 そうですか。

長澤 もちろん、監督さんらしいキリッとしたオーラはあるんだけど、そうじゃない柔らかさもあって……。言葉で形容するのは難しいんですけど。
その後、新年会かなにかで分福(※是枝監督が立ち上げた制作者集団)に行ったときに、西川さんが、ちょうど『永い言い訳』の構想を練られている時で、西川さんの部屋に色々ペタペタ貼ってあって。

西川 あれを見ましたか(笑)。

長澤 是枝さんが、「見ていいよ」っていうから覗いたんです。

西川 そんな、勝手に許可を(笑)。

長澤 チラッとですよ(笑)。チラッとお部屋を覗いたときに、黒木華ちゃんの写真が目に入って、「そうそう、西川さんの映画には華ちゃんみたいな人がピッタリなんだよ〜」って(笑)。そんな感じなので、まさか声をかけていただけるとは思いませんでした。

西川 いやあ、一人でタクシーを待ってみるものですね(笑)

撮影/山本倫子
西川美和(にしかわ・みわ)
1974年生まれ。広島県出身。オリジナル脚本・監督デビュー作『蛇イチゴ』(02年)で第58回毎日映画コンクール脚本賞受賞。長編第二作の『ゆれる』(06年)は、第59回カンヌ国際映画祭監督週間に正式出品され、国内で9ヶ月のロングラン上映に。『ディア・ドクター』(09年)が第83回キネマ旬報ベスト・テン日本映画第一位を獲得。『夢売るふたり』(12年)と『永い言い訳』(16年)と続けてトロント国際映画祭に参加。小説やエッセイも執筆し、『きのうの神さま』『永い言い訳』はそれぞれ直木賞候補となった。本作の発案から公開直前まで、約5年の思いを綴るエッセイを中心に、映画の世界を離れたテーマの読み物と、『すばらしき世界』のアナザーストーリーともいえる短編小説を収録した『スクリーンが待っている』(小学館刊)が発売中。