昨年のことです。小学校の卒業式が迫っている2月上旬、都内湾岸地域在住の小学校六年生の少女(仮にA子さんとしましょう)が、通学する小学校からその姿を突如消したという話を耳にしました。
「また今年もそんなことが繰り返されるのか……。かわいそうな子だな」
わたしはこんな感想を抱きました。
申し遅れました。ここで自己紹介をします。わたしは世田谷区と港区で中学受験専門塾を営んでいる者です。この世界に入って28年目になるいまも、連日、小学生の子どもたちを対象に教鞭を執っています。
さて、このA子さんの話をわたしに教えてくれたのは、中学入試を終えたばかりの「旧塾生」の女の子です(仮にB子さんとしておきましょう)。
「消えた」A子さんはわたしの塾には通っていませんでしたが、この子のエピソードは何ヵ月も前から仄聞(そくぶん)していました。
中学入試直前期に、A子さんとの付き合いに困ったB子さんから、わたしはたびたび相談を受けていたからです。
「ねえ、B子は○○中学校が第一志望校でしょう? わたしもそうなんだよね」
小学校のクラスメイトのA子さんに、突然そう話しかけられたB子さんはびっくりしたそうです。A子さんの言う通りでしたから。彼女とは通っている進学塾も違えば、志望校の話など小学校の中でしたことがないのに、どこでどう漏れたのでしょうか……。
それ以来、A子さんは、B子さんの志望校や学習状況、模擬試験の結果などを執拗に探ってくるようになったのです。