「もう無理に周囲に合わせなくていいんだ」
心理学者のエレイン・アーロン博士は、一九九七年に最初の科学書を刊行して以来ずっと、ジェローム・ケーガンらが「高反応」と呼んだ(あるいは、「消極性」「抑制」などと呼ばれたこともある)性質について独自の研究を続けてきた。アーロンはこの性質を「敏感さ」と呼び、その新しい呼び名に沿って、形を変化させるとともに理解を深めた。
カリフォルニア州マリン郡のウォーカー・クリーク牧場で毎年開催される「とても敏感な人々」(HSP:highly sensitive people)のための週末集会でアーロンが基調講演をすると聞いて、さっそく私は航空券を買った。
ウォーカー・クリーク牧場は、カリフォルニア州北部の大自然のなかに一七四一エーカーもの敷地を持つ。ハイキングを楽しめる遊歩道があり、野生生物も数多く生息し、青空が広がるなか、居心地のいい小さな納屋のようなカンファレンスセンター、バックアイ・ロッジが建っている。六月半ばの木曜日の午後、私たち三〇人ほどの参加者がそこを訪れた。登録書類や名札と並んでフリップチャートが用意されていて、〈マイヤーズ・ブリッグズ・タイプ指標〉で自分がどんな型にあてはまるかを記入するようになっていた。リストに目を通すと、このイベントの運営者である心理療法医のジャクリン・ストリックランド以外は全員が内向型らしい。ストリックランドは温かい雰囲気で感情豊かな人物だった(アーロンの研究によれば、感受性が鋭い人の大半は内向型だという)。
室内には、机と椅子が、おたがいの顔が見えるように大きな正方形に並べられていた。ストリックランドがこの集まりに参加した理由をみんなに尋ねた。トムという名前のソフトウェア・エンジニアが最初に発言した。「『敏感さという性質の心理学的基盤』を知ることができて大変うれしい。すばらしい研究だ! 自分にぴったりあてはまる! これでもう、無理に周囲に合わせようと努力しなくていい。劣等感や罪悪感を持たなくてもいいんだ」――面長の顔、茶色い髪とひげ、トムの容貌はエイブラハム・リンカーンを思い出させた。彼が妻を紹介し、彼女はアーロンの研究を知った経緯を語った。
私の順番になったので、外向的な人間を装う必要を感じずに人前で話をするのははじめてだと話を切りだした。内向性と敏感さとのつながりに興味があると話すと、うなずいている人が何人もいた。