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ゲームストップ株騒動は他人事でない…元マルサが語る株価操縦の実例

食い物にされるのは、一般投資家です
アメリカで、個人投資家の結託により、ゲームストップ株などが暴騰ののちに暴落したことが話題となっている。注目を集める「相場操縦」だが、決して対岸の火事ではない。かつて実際に日本で起きた相場操縦の実例を、『国税局査察部24時』の著者で、元国税査察官で税理士の上田二郎氏が振り返る。
 

ゲームストップの混乱は相場操縦か

米株式市場で起こった、ゲーム専門店・ゲームストップなどの投機的売買による市場の混乱。SNS(交流サイト)のレディット上で情報交換した個人が「買い共闘」をしてゲームストップ株などを急騰させ、ネット証券のロビンフッドが取引制限をしたことで起こった。

米証券取引等監視委員会(SEC)が調査を始めたことで、市場の注目は取引制限の妥当性やSNSでの買いの呼びかけが「相場操縦」とみなされるかに集まっているようだ。

株価の未来を見通すことができれば巨万の富を手にできる。投資家なら誰もが一度は手にしたいと願う神通力だが、かつてITバブルと呼ばれた時代に、相場を自在に操って大儲けをした人々がいた。

乱高下したゲームストップ株(photo by gettyimages)

やっと回復してきた日本の株式市場だが、ブラックスワンの出現に日々怯えながら投資をしている一人として、米国市場の乱高下を対岸の火事とせず、生き馬の目を抜く市場に潜む闇への注意喚起につながればと願って、このたび筆を執った。

本稿で紹介するのは、粉飾決算とMSCB(転換価格修正条項付き転換社債)によって株価を操縦し、莫大な利益を上げた事案だ。結果的にはマルサの守備範囲である脱税での告発はできなかったのだが、国税の領域に粉飾決算という手段を用いて土足で踏み込んだターゲットに対し、相場操縦を視野に入れながら脱税容疑で切り込んでいった――。

税務調査は暗礁に乗り上げていた

さて、株式市場の番人は証券取引等監視委員会だ。市場の公正を図り、市場に対する投資者の信頼を保持することを目的に、強制調査権限を持つ機関として設置された。

主な仕事は、証券市場の監視(インサイダー取引、相場操縦、粉飾等の調査・摘発)や証券検査を行っているが、金商法などにおける犯則事件を調査し、法律違反があった場合には検察官に刑事告発をしている。

税務調査で一定額以上の不正(売上除外や架空経費の計上、相続財産の除外など)が見つかると、マルサの保有資料を確認して調査を終了すべきか、さらに、深度ある調査を行うべきかを判断するために、すべての事案をマルサに通報する制度になっている。その結果、必要がある場合にはマルサが動くことになる。

税務調査は日数の制限や任意調査の壁があって、事案の本質に迫れないケースもある。強固な調査妨害などで真実の解明が難しい事案などもあり、マルサの判断を加えなければ告発される事案とされない事案に差が出て、不公平が生じてしまうことを防ぐための制度だ。

その時のターゲットのD社については、税務署からの通報があったのだが、調査は暗礁に乗り上げていた。D社はO社からPC2000台を3億円で仕入れたことにして(架空仕入)多額の利益を圧縮し、法人税を免れているというのだが、仕入先のO社はこの取引を売り上げとして申告している。単なる通謀取引なら、資金はD社にバックされるはずなのだが、そうはなっていない。

さらにD社はO社からソフトウエアを2億円で購入していたが、このソフトは決算期末に棚卸計上されず、税務署は棚卸除外で課税処理する方針だ。

前述の不審なPCと合わせ、この決算期に圧縮した利益は合計で5億円。その前の決算期にもO社が手掛けた不審なソフト開発費5億円があって、合計10憶円ものカネがD社からO社に流れているが、この取引もO社は売り上げとして申告していた。

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