中田英寿元代表が下鴨神社を訪れた理由

下鴨神社で蹴鞠が見られるのは、例年1月4日だ。「蹴鞠はじめ」として奉納される。ワールドカップを夏に控えた2014年は特別だった。ブラジルの選手が「蹴鞠はじめ」に飛び入りで輪の中に入った。ワールドカップで使用するボールとともに、彼独特のパフォーマンスを行ったのだ。居合わせた私は境内でその様子を見ていたが、蹴鞠保存会の人々が器用に応じていたのを覚えている。

同年5月には、元サッカー日本代表の中田英寿氏が下鴨神社を訪れている。折しも下鴨神社遷宮の年。完成の奉祝事業として蹴鞠が奉納され、中田氏が初めて見学したのだ。彼は蹴鞠に飛び入り参加などはせず、しかしながら、蹴鞠仕様の烏帽子とサムライブルーの装束を纏って神事に参列。ワールドカップ日本代表の必勝を祈願した。そしてブラジルで選手やサポーターに渡すべく、「ヤタガラス・モチーフのお守り」を1000も授与されたのだった。

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下鴨神社では、神武天皇を導いた賀茂建角身(かもたけつのみのみこと)が、本殿のご祭神である。だが、その化身であるヤタガラス(八咫烏命)は、摂社・河合神社の任部社(とうべのやしろ)に祀られている。「サッカーの神様が京都におわしますらしい」。そんな噂を聞きつけて、必勝祈願に訪れる関係者は後を絶たない。境内には選手のサインが記されたサッカーボールが並んでいる。

ヤタガラスが祀られている任部社は糺の森を入って、すぐ左にある。撮影/秋尾沙戸子

身体能力も相手を追い詰める戦略も極めた若きスターたちが国の威信をかけて戦う姿は、テレビ越しに見ても美しい。もしも東京五輪が開かれるとすれば、もちろん日本チームの勝利を祈って止まない。

だが、私はむしろ「蹴鞠の精神」に興味が涌くのである。勝ち負けを競うのではなく、相手の癖を読み込んで、思いやりの気持ちで鞠をまわし、長くラリーを続ける。これこそチームワークの基本だ。私が経営者だったら、企業研修のひとつに、これを導入するかもしれない。体を動かしながら相手を思いやる精神を養う絶好のレクではないか。

試合となれば正しく勝利に導いてくれるヤタガラス。だが、本当にヤタガラスが望んでいるのは、疫病と闘うときでさえ、人々が争うことなく、他人を気遣い思いやり知恵を絞りあって、日本国を安泰に保つことではないだろうか。

そんなことを考え参拝していたら、また上空でカラスが啼いた。

illustration/東村アキコ
東村アキコ(漫画家)  
1975年生まれ。漫画家。宮崎県出身。最近の趣味は着物&茶道
1999年『ぶ~けデラックス』NEW YEAR増刊にて『フルーツこうもり』でデビュー。『ひまわりっ~健一レジェンド?』『ママはテンパリスト』『海月姫』『かくかくしかじか』『東京タラレバ娘』『美食探偵 明智五郎』『雪花の虎』ほか、ヒット作多数。『海月姫』で第34回(2010年度)講談社漫画賞少女部門受賞、『かくかくしかじか』で第8回マンガ大賞、第19回文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞受賞。講談社「Kiss」にて「東京タラレバ娘シーズン2」連載中!