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ゲーム理論を生み出した天才ノイマンは、経済学も根本的に変えた

コンピュータの特許権は放棄
フォン・ノイマンは、スマートフォンの基礎となるコンピュータの仕組みを開発し、原爆開発にも中心的指導者として参加する一方で、経済学の根本的な大改革をも成し遂げていた――前回に引きつづき、ノイマンの生涯と思想に迫った最新刊『フォン・ノイマンの哲学』の一部を特別公開します!
 

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「プログラム内蔵方式」を定式化

原爆投下を目前にして、ロスアラモスの業務に忙殺されていたノイマンは、仕事の合間にコンピュータの「論理構造」を考察し続け、手書きメモをゴールドスタインに送った。

19456月、ゴールドスタインは、それらのメモを『第一草稿First Draft of a Report on the EDVAC)』と題する101ページのタイプ原稿にまとめた。もちろん、その著者名は、「ジョン・フォン・ノイマン」になっている。

EDVACElectronic Discrete Variable Automatic Computer)」は、「ENIAC」の後継機として開発されるコンピュータの名称である。ここでノイマンは、「入力(Input中央処理装置(CPU: Central Processing Unit出力(Output)」という現代のコンピュータの根本となる「ノイマン型アーキテクチャー」を設計した。

EDVACの実証実験(photo by gettyimages)

「中央処理装置」は、「制御装置(CU: Control Unit)」、「算術論理演算装置(ALU: Arithmetic and Logic Unit)」、「記憶装置(MU: Memory Unit)」によって構成される。

そこで重要なのは、「記憶装置」が「プログラム内蔵方式Stored Program Method)」になっている点である。

かつて人類史上に存在した機械の大部分は、各々が特定の目的を果たすために制作されてきた。たとえば、時間を示すのは「時計」、計算するには「計算機」、写真を撮るためには「カメラ」を使う。

複雑な弾道計算のできる「微分解析機」や、暗号解読を行う「コロッサス」も、ある特定の目的を果たすために制作されたという意味では、同等である。

それに対して、現代の「スマートフォン」には、「電話」の機能はもちろん、「時計」「計算機」「カメラ」に加えて、「メール」「カレンダー」「ゲーム」など数多くのソフトが組み込まれ、ボタン一つを押すだけで、一台の機械が多彩な目的を果たす機械に早変わりする。

要するに、同じハード(機械)を使いながら、ソフト(プログラム)を変換すれば、多目的に対応することができる。その「プログラム内蔵方式」の概念を史上最初に明確に定式化したのが、ノイマンだったのである!

「設計の功績は我々にある」

ゴールドスタインは、ノイマンの『第一草稿』を謄写版で印刷し、軍部と政府の関係者や、アメリカ各地の研究者に配布した。この草稿が瞬く間にヨーロッパに伝播(でんぱ)し、その後のコンピュータ開発の「バイブル」になったわけである。

ところが、エッカートとモークリーは、『第一草稿』に自分たちの名前が入っていないのは「不公平」だと激怒した。彼らは、「ノイマンは、我々が工学的に組み立てた電子回路を数学的な言葉で書き換えただけで、設計の功績は我々にある」と主張した。

たしかに、彼らが工学的な設計に多くの工夫を凝らしたことは事実だが、その全体像をまったく斬新な概念で定式化したのは、ノイマンである。彼の天才的発想がなければ、「ノイマン型アーキテクチャー」は完成しなかったに違いない。

実は、エッカートとモークリーは、コンピュータの特許権を取得して、巨万の富を得ることを夢見ていた。しかし、ペンシルベニア大学のプロジェクトは、陸軍の資金援助によって成立している。だからこそ、ゴールドスタイン中尉は、陸軍顧問のノイマンに助言を求めたわけである。

ゴールドスタインが『第一草稿』をタイプした時点では、戦争が継続中であり、原爆設計に必要な新たな計算機を開発するために、ノイマンの定式化を早急にまとめて、陸軍に提出する必要があった

だから彼は、タイプ原稿に『第一草稿』という表題を用いたのであって、続く改訂版では、主要関係者の功績についても詳細を言及していく予定だった。

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