精神的な余裕は意欲と笑顔を生む

家族以外の異性と暮らす初めての結婚生活にあたり、わたしは何よりも時間を求めた。自立のために家を出て20年弱、ずっと一人で暮らしてきたのだ。変化の先で自分のペースをつかむまでには、それなりの体力と時間を要することはもう十分理解している。仕事も住環境も変えるわたしにとって、時間のゆとりと体力保持は命題! 次の仕事は「派遣」一択。航空会社に辞表を提出し、有給休暇消化中に派遣会社に登録しに出かけた。

約3年ぶりのデスクワーク、伸るか反るか! 久しぶりのオフィスの雰囲気に緊張すらしていたわたしにも、思いがけず多くの求人を案内してもらえたのは、正社員から派遣社員まで雇用形態を問わず「編集者」「PR」などを経験し、そして「チームワーク」を求められる環境で働いてきたことを見てくれてのことだった。それぞれにおいてエキスパートというほど全ての経験年数は多くないけれど、「現場を知っている」ということを重宝がられ、すぐに出版社の宣伝部に就業が決まった。

PR業務では、プレスリリースだけでなく宣伝動画の作成も。写真提供/松さや香

ブランクはあれど専門知識と経験は新しい職場でありがたがられ、感謝されることはもちろんうれしく精神的な余裕も生まれた。過去の自分が今の自分を支えてくれているような、重ねた時間への手応えを感じられた。生まれた余裕は意欲と笑顔を生み、ゆとりを家族の時間と学びに回せていた時、就業先から契約期間満了時には業務委託として契約しないか?という申し出を受けた。

思ってもみなかった契約オファーに戸惑っていると、同じタイミングで別の会社からも「仕事を手伝ってほしい」とお誘いを受けて驚いた。自分のスキルが市場でどれほどの価値を持つか、よく分からない。けれど、こんな風に2社からの同時にオファーが来ることは、そうそうないことも経験上知っている。

生前の父がよく言っていた教訓「人生は、気合いと間の取り方次第」を思い出す。機会に気合いを投じるなら、まさに今、ここなのでは? わたしは2社それぞれにお受けする旨を連絡し、そのまま税務署に震える足で開業届を提出しに行った。さあ、伸るか反るか(涙目)。

乳がんに留学、CAを経て開業までするなんて……。開業&リモートワークで妙に体力とやる気が増してしまい、勢いで去年大学院を受験。現在、昼間はPR業と著述を少し、夜は社会人大学院生として学び直しという1年前には想像もつかなかった今日を生きている。生きるって、それだけで可能性の塊だ。新しいことを始めることは、もちろん今も怖い。得られる可能性があるということは、失う可能性も同時にあるということだから。けれどそれは、やらない理由にもうならない。

思いがけない事態によって世界が一様に窮しているとき、玉石混交の情報に振り回されることなく自分で考えて選ぶことの大切さを、行動だけが自分を救うことを、これまでの日々から学んだ。選択肢があることの豊かさを噛み締めて、時間という資産の投じ先を自分で考えて今日も選ぶ。人生は全ては手に入らないけれど、投じた分は返ってくるから。