経営者としての江副浩正の天才性を早くから認めていた人がいる。
京都大学で教鞭を執る一方で、ベンチャーに挑む若者を育てるエンジェル投資家として活躍し、『僕は君たちに武器を配りたい』『ミライの授業』などの著書で知られる瀧本哲史氏だ。
2019年8月10日、瀧本氏は47歳の若さでこの世を去った。日本の未来を切り拓こうとした氏のメッセージは、伝説の講義録『2020年6月30日にまたここで会おう』という形で、幅広い世代に読み継がれている。
私は『起業の天才! 江副浩正 8兆円企業リクルートを作った男』を書くため、2018年5月9日、瀧本氏にインタビューをした。江副氏とはいかなる人物だったのか。どのような点において「天才」なのか。
『起業の天才!』の完成を機に、インタビューの全文をここに掲載する。
――経済の専門家でエンジェル投資家でもある瀧本さんから見て、江副浩正とはどんな経営者ですか。
瀧本氏 星新一のショートショートに『服を着たゾウ』という作品があります。江副浩正という人は、この物語に出てくるゾウにそっくりな人でした。
瀧本氏 大学を出てすぐに会社を興した江副さんは、ゾウが「人間とはなにか」が分からなかったのと同じで、「経営者とはなにか」がよくわからなかった。「自分は経営が分かっていない」という欠乏感の塊でした。経営者とはなにか、経営者なら何をすべきかをピーター・ドラッカーの本から懸命に学び、純粋にそれを実行したのです。
それゆえ、リクルートは「ファクトとロジック」「財務諸表と経営戦略」の会社になりました。人の情緒に訴える「カリスマ経営」の対極に位置する、日本では珍しいタイプの会社です。「世界の情報をすべて整理する」という社是を掲げた米グーグルも、ロジックの会社です。その意味で、リクルートとグーグルは同じタイプと言えるかもしれません。
「服を着たゾウ」が「人間とはなにか」を考えながら成長したように、江副さんも会社に危機が訪れるたびに「経営とはなにか」を自問して成長したのです。