この世界は「空間3次元+時間1次元」ではなく、11次元なのかもしれない

素粒子物理学者の考える驚愕の世界像
数から科学を読む研究会

余剰次元の存在をどうやって知るか

ひとつの方法は、ヒッグス粒子の発見で名をとどろかせた、欧州原子核研究機構(CERN)の加速器LHCを使う観測実験だ。もし余剰次元がある程度広がっていれば、LHCの実験でミニブラックホールの生成を観測できるかもしれない。ミニブラックホールはすぐに蒸発し、この世に何の影響も及ぼさないので心配はないが、その痕跡を膨大な雑音信号から探し出すのは非常に難しい。

また、4つの力のうち、重力だけがこの4次元空間にとどまらず、他の次元に流れ出ることができると超弦理論では考えられている。だとすれば、重力が他の次元に漏れてしまい、エネルギー保存則が成立しないといった現象が見つかるかもしれない。さらに、新しい粒子、「カルツァ‐クライン粒子」をLHCで捕まえることができるかもしれない。これは広がっている余剰次元の方向に振動する小さな弦の表れだ。

もうひとつの方法は、非常に近接している2個の物体間に働く重力を直接測ることだ。こういうと、「なんだ、そんな単純なことか」と思うかもしれないが、これが大変なのだ。

ニュートンが万有引力を発見してから約350年、この間、人類は遠く離れた物体の間に働く重力に関しては、測定の精度をめざましく向上させてきた。たとえば、月と地球の間の重力は、10のマイナス11乗という高精度で距離の逆2乗則に合致していることが明らかになっている。

ところが、非常に距離の近い物体間の重力の測定はほとんど手付かずで、前世紀末までに逆2乗則が成り立つことが高精度で確かめられたのは、数ミリメートルという範囲だった。ナノテク時代に不思議な話だが、それほど測定が難しいのである。

測定方法としては、18世紀末に英国のキャベンディッシュが考案した「ねじれ秤」が基本だ。秤の両端に重りをとりつけ、近くに重力源の物体を置き、重りと物体の間に重力が働いた結果のねじれを測定する。そこから求められた重力の値と、逆2乗則から理論的に求められた値を比較する。このとき有意にずれていれば、逆2乗則が破れていることになる。

キャベンディッシュが実験に用いた「ねじり秤」

わずかなねじれを測定する非常に微妙な実験なので、周囲からのさまざまな影響を排除するために、真空容器に入れるのはもちろんのこと、いろいろと工夫が凝らされている。現在、欧米日のさまざまなグループがこの実験を進めている。

2007年に米国ワシントン大学(シアトル)のグループが、0.055ミリメートルの距離での重力が0.01%という高精度で逆2乗則に従う測定結果を出している。

極小距離での超精密な重力測定に挑む

まったく新しい方法で、なんと原子サイズの1000分の1という極小距離間の逆2乗則がどうなっているのかを検出しようとしているグループが日本にある。立教大学の村田次郎教授たちだ。

この極小距離をねらう新たな実験方法では、原子核を重力源に、電子をジャイロスコープに見立てる。負の電荷を持つ電子は、電磁気力によって正の電荷を持つ原子核に引き寄せられ、まわりをぐるりと回ってきた方向に戻る。

このとき、余剰次元が原子の大きさにまで広がっていれば、原子核のまわりの重力の強さは逆2乗則の場合より強くなり、時空の歪みが大きくなる。その結果、電子のスピン(自転)の向きが通常より大きくずれる。このずれを高精度で測定しようというのだ。重力が周囲の時空を歪ませるのは、一般相対論の根幹だ。

原子核を用いた余剰次元探索実験の概念図(出典:立教大学・村田次郎。図は『あっと驚く科学の数字』より)

村田教授は、別のテーマでの実験で、微妙なスピンの向きのずれの高精度な測定に携わってきたので、その測定技術は世界のトップをいく。カナダ国立素粒子・原子核物理学研究所と協力して、2012年から新しい実験を開始している。

たとえば0.001ミリメートルでの逆2乗則の破れを探るのは、40TeVのエネルギー、LHCの約3倍のエネルギーを持つ加速器で、ミニブラックホールやカルツァ‐クライン粒子を探るのに等しい。このような状況を考えると、村田教授たちの原子サイズの1000分の1を対象とする実験の結果は、画期的な意味をもっている。

(本記事は『あっと驚く科学の数字』の内容を再編集したものです)

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