昭和23年創業。東京都台東区・三筋にて三代にわたる老舗傘メーカー、前原光榮商店。昔ながらの製法を受け継ぎ、メイドインジャパンにこだわった熟練の傘職人による傘は、皇室をはじめ数多くの著名な方々にも愛されています。雨をしのぐ道具としてではなく、暮らしに豊かさをもたらす前原の傘の魅力をお2人に語っていただきます。

本日のテーマ: 前原光榮商店の傘
Lesson1 よい傘を持つと「しぐさ」が違う
Lesson2 選ぶ傘に「スタイル」が現れる
Lesson3 「エレガンス」という社会への抵抗

Lesson1 よい傘は持ったときに「しぐさ」が違う

――傘=消耗品というイメージの多い中、素材にこだわった前原の傘は使うほどに味わいを増し、経年変化を楽しむことのできるアイテム。天然素材を利用した個性のある手元や、デザインのバリエーションも豊富で、唯一無二のオリジナルの傘を楽しむことができます。

縁にポイントカラーをあしらった人気のツートンデザイン。こちらの紳士用雨傘は60cmの骨をメインに16本の骨組みタイプ。骨の本数が多いことで傘を開いたとき円形に近くなり、華やかで安定感のあるシルエットになります。紳士・ボーダー-ダークブルー×ダークパープル傘¥22000~(税込)/前原光榮商店

森岡 前原の傘は骨が16本のタイプがありますが、普通の骨組みの傘とは開いたときのシルエットの丸みがまったく違います。それでいて、巻くとかなり細くなるので閉じたときも美しい。
中野 傘は細ければ細いほど良いですよね。前原の傘はステッキのように細くなる。メンズの傘は、昔、海外ではステッキの代わりとしても使われていたそうです。細くて長い棒状のものをもつのが紳士のたしなみ、といったカルチャーがイギリスの紳士の世界にはありますよね。剣から乗馬用の鞭になり、ステッキ、傘へと変わっています。
森岡 イギリスの人は傘を持つけれど雨が降っても傘をささないと言われます。雨をしのぐための道具ではなく、紳士のスタイルとして装いの一部分という感覚なのでしょうね。
中野 ごく最近まで、道路脇で傘巻きを仕事にしている人を見かけました。閉じて巻かれた傘の姿にこだわっていたようです。傘は一度開いてしまうと、細く巻き上げるのが非常に難しいですから。それから、いい傘は持ったときの仕草が違います。傘を開く際の手首をひねる様がいい。
森岡 あの仕草はかっこいいですよね。あと、前原の傘を始め、良い傘は最終的には開いたときやロックするときにカチッと心地良い音がします。持つ喜びの一つに“音”を楽しむということが含まれますね。男性がベンツのドアを閉める音に惹かれるのと同じです。
中野 いい傘は雨音も違うように聞こえますね。
森岡 生地の質感と張りが良いので、パンパン! っと、雨を弾く音もリズムを刻むように聞こえます。笑

閉じたときはシンプルなライトブラウン。傘を開くと目に入るのが花柄を描いた個性的なデザイン。ほぐし織で織られた柄は柔らかく霞んだ印象が特徴。婦人・ショウビ-カーボン-ライトブラウン¥33000~(税込)/前原光榮商店

森岡 他に比べると少し重さがありますが、それは気にならない範囲だと思います。あと、お直しもしてくれるので長く使えるのもいいですね。
中野 ラグジュアリーなブランドというのは必ずお直しができますよね。前原の傘はデザインのバリエーションも豊富で、内側のみ柄の傘も作っているのですがそれも素晴らしいです。外側から見たら単色なのに、内側にはドラマチックな柄が描かれている。雨の時、自分だけの世界に浸るような、何とも言えないラグジュアリーな気分になります。でも、こちらの傘は雨が降りすぎていたらダメなんです。大雨の時には使わないでくださいという注意書き付き。大事にしてあげなくてはいけないという部分も含めて愛おしいですね。

森岡 スーツの裏地に凝る、そんな感覚と近いものがありますね