日本人がまだまだ知らない…自衛隊「深刻すぎる大問題」の正体

自衛隊は「軍事的過失」を犯さないのか
伊勢崎 賢治, 伊藤 真 プロフィール

「無法地帯」になる可能性も…

伊藤:本来、こうした議論と9条改正の議論は別物です。私も自衛隊は軍隊とは異なる組織だと思いますが、現実として海外では軍隊として扱われ、自衛官個人で武器使用が認められている。

もちろん人間だから過失は起こりうる。だから、日本がどれだけ交戦権を認めないと言っても、実態として事件が起こる可能性はあるわけです。それをいかに統制するかが法に求められる役割です。法整備されてないということは、無法地帯にもなりえますから。

伊勢崎:そのとおり、まったくの無法地帯です。自衛隊がその行動の中で起こす過失は、末端の自衛隊員が実行犯でも、それは国家の命令行動の中で起きたこと。その過失を発生させた指揮命令系統のどこに責任があるのかを認定し、起訴・量刑の起点にしなければならないのですね。

上官が、たとえ命令していないと言い張っても、それを止められる地位にいながら見過ごした責任が厳しく問われる。日本の法体系は全然追いついていません。

伊藤:それはやはり現行の刑法を前提にしているからですね。現行法では正犯が一番悪い、手助けしたり教唆したりする人は共犯であり、正犯に従属する立場として処罰される。

また「共謀共同正犯」というものがありますが、条文ではなく解釈で首謀者を処罰しようというもので、これが刑法の限界です。

ここで議論しているような国際的な人道犯罪を刑法で処罰しようとすると、トップではなく下から順々に処罰していくことになりますが、逆ですよね。このように、なんとか刑法でおさめようとすると無理が出てくるんです。

 

伊勢崎:統合幕僚学校の授業でそういう話をしたある日、授業後に自衛隊の法務官が質問に来たことがありました。授業では国外犯規定についても話をしています。

「自衛隊が想定すべき事犯は、やはり現状の刑法では対応できないと考えるべきなのでしょうか」と、これも遠慮がちに聞くのです。なにか、国家レベルでタブー感が支配しているようですね。

伊藤:私は国際人道法・人権法違反や国外犯規定について、ちゃんと規定を置くべきだと思っています。同時に、自衛隊の組織の中でトップを処罰して下の方を免責するという規定を入れることが重要です。その上で、自衛官の人権を保障していくことが重要だということです。

ドイツの軍人法6条では「軍人は一般市民と同等の権利を有すること。権利の制限は、軍務の要請の範囲内においてのみ、かつ、法律に基づいてのみ行われること」と書かれています。軍人も人権の主体である、つまり、自衛官を人間として扱うということです。例えば不服申し立ての権利や表現の自由もある程度認められるべきでしょう。

伊勢崎:僕たちは、まさにそれを、衆院法制局のチームとの作業で結実した新しい法案「国際刑事法典」の中に入れたのです。人権が与えられた個々の自衛官には、逆に、国際法の違反行為を理解し行動する責任が発生します。何が人権侵害なのかを知らなくてはいけないわけです。

明らかに国際法違反である上官の命令に背いても抗命罪から自衛官を保護すると同時に、国際法違反であると知っていても命令に従って起こした事犯の罪を、それを命令した上官の罪と共に問うという。

伊藤:自衛官への教育も必要ですし、当事者になった方や命じた方への事後の精神的なケアも含めて、仕組みを作らなくてはいけません。

そのためには、情報公開が重要です。自衛隊の南スーダンPKO派遣部隊の日報廃棄問題が生まれてしまうような組織の体質は改める必要があります。

自衛隊組織の透明性と自衛官の個人の人権保障を常にセットで考えて、議論を進めていかなければいけません。

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