新型コロナウイルスだって、いつかは人の健康に役立つ日が来るかも

ヒトもウイルスを利用して生き延びた
NHKスペシャル取材班

取材活動を進める中で、芥川が驚いたのは、前述したとおり、ヒトの全遺伝情報であるヒトゲノムに占めるウイルス由来の部分の割合が8%にも及ぶことだ。ただし、この8%には「おそらくウイルスに由来するが、確証はない」部分も含む。とはいえ、ウイルス由来の部分が、それだけたくさん含まれているのだ。

敵をも利用する生命のしたたかさ

芥川は取材するたびに「ウイルスとは何か」という率直な問いを専門家に投げかけた。「生物になり損なったもの」と生物に劣る存在という見方を示す人もいれば、「生物とウイルスのどちらが先に生まれたのかわからない」と答える人もいた。

 

「異物であり、敵であるウイルスもしっかりと活かしているところに、生物の進化のしたたかさを感じますね」とは、免疫とウイルスが競いながら進化してきた歴史をたどるVTRに対して、元ラグビー界のスターで、医師を目指している福岡堅樹さんがスタジオで述べた感想だ。

芥川も取材の過程で、ウイルス由来の遺伝情報すら活用する生物の能力が何によるものなのか疑問に思った。

ある専門家が教えてくれたのが、エピジェネティクスと呼ばれる、DNAの働きをオンにしたり、オフにしたりする仕組みだ。たとえば、DNAのある部分にメチル基と呼ばれる蓋をかぶせてその部分を読めなくしてしまい、タンパク質が作られないようにしたり、タンパク質が作られる量を減らしたりして調節する。

また、DNAはヒストンと呼ばれる円盤状のタンパク質に巻きついて数珠が連なっているような状態で細胞の核に収まっているが、ヒストンにメチル基などがついたり離れたりすることで、DNAの働きをオンにしたりオフにしたりすることもある。その専門家によれば、哺乳類ではこのDNAの働きを調節する仕組みが特に発達したという。

こうして生物、なかでも哺乳類は、自分自身のゲノムにウイルスの遺伝情報を書き加えられても、いつでも蓋をして封じることができるようになった。もし、ウイルスがゲノムに入っても、その部分をオフにしてしまえば機能を封じることができる。

一方で、ウイルスが挿入した部分も、まったく意味のないわけではなく、何かしらの機能を持っている。そこで環境の変化などに合わせて、この部分の働きを調整してオンにできれば好都合だ。ウイルス由来の部分が哺乳類自身にとって何らかの有利な機能を担う場合もあるからだ。

生物のゲノムに、自らの遺伝情報を挿入するウイルスもすごいが、それを利用して、進化の原動力とする生物はたしかにしたたかだと芥川は思った。

関連記事

ABJ mark

ABJマークは、この電子書店・電子書籍配信サービスが、著作権者からコンテンツ使用許諾を得た正規版配信サービスであることを示す登録商標 (登録番号 第6091713号) です。 ABJマークについて、詳しくはこちらを御覧ください。https://aebs.or.jp/