新型コロナウイルスだって、いつかは人の健康に役立つ日が来るかも

ヒトもウイルスを利用して生き延びた
NHKスペシャル取材班

発見された体内の39の常在ウイルス

口や皮膚、腸には「常在菌」と呼ばれる無数の細菌が棲みついていることはよく知られている。いちばん多いのは腸の中で、ヒトのすべての体細胞数(推定37兆個)と同程度の数の細菌がいる。これら常在菌は、われわれが体調を崩したときに悪さをすることもあるが、多くの場合、健康を保つのに大きな役割を果たしている。

 

ウイルスにも、いつも体の中に潜んで、われわれの健康に悪影響だけでなく、何かよい効果を及ぼしている常在ウイルスがいるかもしれない。そんな研究を発表したのが、東京大学医科学研究所准教授の佐藤佳さんだ。佐藤さんがこの研究で注目したのは、健康な人間の体内にどんな常在ウイルスがどれくらい潜伏しているのかだ。

佐藤さんが2020年6月に発表した論文によれば、健常人547人の51種類の組織の遺伝情報と、ウイルスの遺伝情報を網羅的に比較して解析したところ、脳、心臓、肺、肝臓、大腸、血液、筋肉などの27種の組織に、少なくとも39種類のウイルスが常に存在していることが見いだされたという。そのうちのひとつであるヒトヘルペスウイルス7型は胃にひそみ、ヒトの遺伝子に作用して、胃の生理的な働きに影響を与えている可能性があることも明らかになった。

「多くの人はウイルスに対して怖いというイメージを持っていると思います。しかしウイルスの中には、人によい効果を及ぼすものがいるかもしれません。さまざまな視点から調べることで、ウイルスを新たに定義するような研究をしていきたいと考えています」(佐藤さん)

生命とウイルスは、40億年もの歴史の中で、敵対するだけでなく、時におたがいに利用し合う、「共存関係」を築いてきたのである。

DNAは「文字」、遺伝子は「文章」、ゲノムは「辞書」

免疫とウイルスの進化の歴史に関するVTRを作ったスタッフのひとりが、NHKエデュケーショナルで科学健康部に所属する芥川美緒だ。大学まで文系だったが、子どもにも楽しめる「シリーズ人体」を作ろうと企画し、前出の古川とともに、2018年、ユニークな手描きアニメや、キャラクター化された臓器で、生命の不思議に迫るシリーズ番組「バビブベボディ」をスタートさせた。この制作のため、研究者に取材を重ね、人間の体の仕組みを学んできた。

芥川は今回の「人体vsウイルス~驚異の免疫ネットワーク~」制作チームに加えられたとはいえ、初めはウイルスと細菌の区別もついていなかった(ウイルスは自分自身で増えることができないが、細菌は自らコピーを作って増えることができる)。

生物の遺伝情報を伝える物質であるDNAを「文字」とすれば、遺伝子は、体をかたち作るタンパク質のもととなる情報、いわば意味のある一連なりの「文章」である。そしてDNAという文字で書かれてはいるものの、タンパク質を作るもとにはならない部分もある。それら意味のある文章も意味をなさないデタラメな部分もすべてひっくるめた一冊の「辞書」にあたるのがゲノムだ。

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