新型コロナウイルスだって、いつかは人の健康に役立つ日が来るかも

ヒトもウイルスを利用して生き延びた
NHKスペシャル取材班

ヒトのDNAの8%がウイルス由来

なぜ、このような共存関係が生じたのか。実は、ウイルスの中には、侵入した生物の細胞に自分のコピーを作らせるだけでなく、自分の遺伝情報であるRNAを生物の設計図であるDNAに組みこんでしまうものがいる。この種のウイルスは「レトロウイルス」と呼ばれ、HIVはその一種である。

レトロウイルスの特徴は、逆転写酵素と呼ばれる特殊な変換マシンを持っていることだ。

通常の細胞では、タンパク質を作る際、(二本鎖の)DNAを鋳型としてRNA(メッセンジャーRNA)というコピーを作る(転写)。そしてRNAの配列を読みとりタンパク質を作るのだ。DNA→RNA→タンパク質という順に遺伝情報が伝達され、その逆はありえないという考えは「セントラルドグマ」と呼ばれる。DNA二重らせん構造を発見したフランシス・クリックが1958年に提唱して以来、生物の基本原理とされていた。

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これを覆したのが、レトロウイルスから見つかった逆転写酵素だ(1970年に、ハワード・マーティン・テミンとデビッド・ボルティモアにより独立して発見され、ふたりは1975年にノーベル生理学・医学賞を受賞した)。

DNA→RNA→タンパク質の順に遺伝情報が伝達されるとするセントラルドグマに反して、レトロウイルスでは、逆転写酵素の働きにより、RNA→DNAの順に、つまりウイルスのRNAを鋳型にしてDNAにコピーされる。ここからDNAに変換されたウイルスの配列が、感染した細胞のDNAに組みこまれ、その部分がレトロウイルスに必要なタンパク質を作り、レトロウイルスは増殖する。

こうしてはるか昔に祖先のDNAに組みこまれてきたウイルスの遺伝子が、私たちのDNAの約8%を占めていると考えられている。

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