出産ジャーナリストの河合蘭さんによるFRaUweb連載「出生前診断と母たち」。出産の前には出生前診断により胎児の病気がわかったり、別のハプニングがあったりして、生命の危機や、子どもが障害を持つ可能性を告げられることがある。そんな時は、妊娠を継続するかどうか決断をしなければならないことも多い。大切なのは、親が自分たちで考え、そして自分たちで決断することなのだろう。

今回お話を伺った方は双子を妊娠、そのひとりに腎臓がうまく作られず、致死的な「ポッター症候群」になってしまうという事実が突きつけられた。そのときに妊娠継続するか否かを決断し、胎児治療に挑んだ前回の話に続き、双子の出産に河合さんが立ち会ったときの話をお伝えする。

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すごく元気です

「胎動はあります。すごい元気です」
快晴の朝、まもなく帝王切開のために手術室へ出発する天野沙耶さんは、夫と共に窓辺に立って晴れやかな笑顔をこちらへ向けた。冬の太陽が、病院の高層階に長く差し込んできて夫婦を包む。
つかの間の静けさの中、大きなお腹での、最後の記念撮影だった。

まもなく帝王切開に出発するふたり。やれることはやった、という思いがある 撮影/河合蘭

とはいえ、ふたりはこんな話もしていた。
「2人で写真撮ることなんか、今日までなかったね」
天野さん夫婦は今まで全く余裕なく走り続けてきたから、本当にそうだったと思う。すでに子どもをふたりもうけ、今また、双子の赤ちゃんを迎えようとしている30代のふたり。双子は胎名をリクちゃん、ソラちゃん(共に仮名)と呼ばれている。その双子のうち、ソラちゃんには、厳しい運命が待っていた。妊娠初期の超音波検査で、腎臓がうまく作られない多嚢胞性異形成腎という病気を診断されていたのだ。4500人に1人と言われ、致死的とされる「ポッター症候群」に至る病気のひとつだ。

腎臓が機能しなくても、現代には透析や腎移植という手段がある。ただ、胎児で腎臓がないということは、とても高いハードルがあった。羊水は、胎児が自分の腎臓で作る尿が主な成分で、胎児は、それを肺の中に飲み入れることで呼吸可能な肺を作ることが出来る。腎臓が働かない胎児は、羊水を作れず、誕生によって母親からの酸素供給が断たれると命の火が消えてしまう――現在のところ、世界中の産科医、新生児科医はそう思っている。

しかし日本には、ポッター症候群の胎児を救おうとする「胎児医療」に挑んでいる病院がごく少数だが存在する。母親のお腹に針をさし、生理食塩水を子宮に注入する「人工羊水注入」の応用だ。天野さんが、自宅から車で3時間もかかる距離だったにもかかわらず、ここ東邦大学大森病院を選んだのは、この病院がもともと腎臓病の権威であり、その挑戦を決断した病院のひとつだったから。長時間かけて子宮に生理食塩水を入れる治療はとてもつらいものだったが、天野さんは7回に渡る注入に耐えて無事に臨月を迎えた。