あなたの子があなたに似ているのは、DNAの塩基配列のためだけじゃないかも!?

獲得形質も遺伝するけど用不用ではない
更科 功 プロフィール

エピジェネティックな情報は変化しやすい

DNAは、ヌクレオチドという化合物がたくさんつながった分子である。ヌクレオチドの一部は塩基という構造になっていて、この塩基にメチル基が結合するとメチル化された塩基になる。つまり、塩基はヌクレオチドの一部分で、メチル基はさらにその塩基の一部分だ。

【図】DNA-ヌクレオチド-とメチル化

全体を変えるより一部を変えるほうが簡単なので、塩基を変化させるよりメチル化を変化させる方が簡単だ。このため、塩基配列よりメチル化のパターンの方が変化しやすいと考えられる。実際、塩基配列は、生物の一生を通じて変化しないことが普通だが、メチル化のパターンは、(それなりに安定しているけれど)細胞が分化する過程で変化することが普通である。

また、環境などの影響でメチル化のパターンが変化することも、それほど珍しいことではない。たとえば、セイヨウタンポポを低栄養状態にすると、メチル化のパターンが変化する。そして、この変化したパターンは、子の世代にも伝わる。これは、親が生きているあいだに獲得した形質が子に伝わったのだから、獲得形質の遺伝ということになる。

少し古いが、こんな話もある。スウェーデンの北部で1905年に生まれた99人とその両親や祖父母の寿命と、農作物の生産量との関係を調べてみた。すると、少年時代に飽食を経験した男性の息子や孫息子は、有意に寿命が短かったのである。これは、飽食によって獲得された何らかの形質が、何らかの形で子や孫に伝えられたからと考えられる。

女性であれば子宮などの環境などが変化して、それが子に影響した可能性も否定できない。ところが、男性の場合は、子に情報を伝えるためには精子を経るしかない。しかし、飽食によって、DNAの塩基配列が変化することは考えにくい。そうなると、子に情報を伝える手段としては、エピジェネティクス以外にほとんど考えられないことになる。

この解釈が正しければ、このスウェーデンの現象は、ヒトにおける獲得形質の遺伝ということになる。ただし、この研究は昔の記録をもとにしているし、サンプル数も少ないので、説得力が強いとはいえない。とはいえ、マウスでは、これに近い現象が報告されている。

【図】マウスのストレスを与える実験ストレス下で飼育したマウスの生存力が向上したのみならず、ストレスのない環境で飼育した子世代のマウスの生存力も向上した

スウェーデンの話はともかくとして、「獲得形質が遺伝することがある」ことは確実であり、もはや常識と言ってよいだろう。

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