「死か、さもなくば支配か」米中対話が絶望的に不可能な理由があった

地政学があぶり出す人間の本性
ペドロ・バーニョス プロフィール

同盟関係を強化すれば、より大きな敵と戦うことに

一方、より高いレベルの集団的安全を確保できると仮定して国家間での政治・軍事同盟を組む場合には、同盟の目標を明確にすべきである。いくつかの国家が、敵対する国々に対する防衛力を高めるために同盟を組むと決めた場合、敵対する国々もまたそれに対抗して連携することが多い。そうなると、両者の規模が大きくなるため、それまで以上に破壊的な戦争が起こる恐れがある。つまり、旧来の同盟より強化された新同盟ができたとしても、必ずしもそれまで以上の安全が確保されるとはかぎらない。世界から暴力が減るわけでもないのである。

 

「人間はまさに百獣の王である。その粗暴さは、他の動物をはるかにしのぐ」レオナルド・ダ・ヴィンチはこう述べた。まるで人類には原始的な野蛮さから脱する能力がなかったかのように、この世界ではいまだ暴力がはびこっている。

「平和を維持するためには、われわれにはとくに問題はないと思えるいまの状態を「平和」ではないと考えて現状を変えるために力を行使しようとする人たちがいることを考慮しなければならない」とマイケル・ハワードは述べている。つまり、戦争を始めるのは誤りだと一方だけが考えたところで、他方も同じように考えるとはかぎらないとハワードは教えてくれている。

複雑な国際関係には通常、善も悪もない。それぞれがそのときどきの自己利益ばかりを追い求めているが、利益といっても近年は予測不能で移り変わりやすい。世界的な影響力がごく小さいような弱小国には、強大国の行動のどれが自国にとっての利益となるか、あるいはどれが損害となるのかを分析し、最大の利益を得ようとするか、被害を最小限にとどめようとするしか道はない。孤立することがダメージとならないかぎりは、大国同士の争いから距離を置くか、あるいは状況に応じて適切な国と同盟を組むこともできるだろう。ほかのいかなる理想主義を掲げたところで、国益にとってはより痛手となるだけだ。

したがって地政学では、それ自体が善であったり悪であったりするものがあるわけではなく、すべてはその場その場で利益をもたらしもすれば害にもなると考える。そして、偽善と皮肉が支配するこの世界で唯一いえることは、信じられるのは自分自身の力だけということだ。(翻訳 金関あさ、村岡直子、神長倉未稀)

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