「死か、さもなくば支配か」米中対話が絶望的に不可能な理由があった

地政学があぶり出す人間の本性
ペドロ・バーニョス プロフィール

フランスの将軍で地政学者でもあるピエール・M・ガロアによれば、戦争を始めるのは必ずしも強者とはかぎらない。というのも、英国の思想家であり軍事史家でもあるJ・F・C・フラーが述べたように、「貧しい人々が権力者の富を奪い取りたいと願うことに何ら不合理はない」からである。

 

いわゆる「西洋世界」の人口は9億人だが、地球上には現在、見解も文化も異なり、ある意味で発展とグローバリゼーションの敗者とみなされる66億もの人間が住んでいる。したがって、地球人口の大部分が、形勢が一変して自分たちが特権階級となることを望んでいるのは明白だ。

大国同士の継続的な対話など夢物語

暴力が蔓延する現状について、米国の政治家ヘンリー・キッシンジャーは、超大国の行動を、強固な武装に身を固めて手探りで同じ部屋のなかを進もうとしている2人の視覚障害者にたとえている。2人とも、相手は目がよく見えるのだろうと考え、自分が死の危険にさらされていると思い込んでいる。やがて2人ともひどく傷つく。そのとき、彼らがいる部屋がどんな有様になっているかは想像できるだろう。

地球も同じだ。そういう状況はすでに見られ、今後も見られるに違いない。そしてそのたびに、われわれ人間は、超大国が核にかぎらずいかに絶大な破壊力を備えているかを考えて、混乱状態に陥るのだ。解決策は大国同士の継続的な対話ということになるのだろうが、「絶対的権力を握りたい」という終わりなき欲望を前にしては、それも夢物語でしかない。

ジャーナリストであり政治アナリストでもあるロバート・D・カプランは、根本的な問題をこう指摘している。「世界は自然の状態で続いている。そこには17世紀の哲学者トマス・ホッブズが描いたような、不正者を罰するリヴァイアサン〔訳注:『旧約聖書』の「ヨブ記」に登場する巨大な動物。ホッブズは教会権力から解き放たれた国家をこう称した〕は存在しない」つまり、不正な者を罰するための国際的司法権が存在してはいるが、権力者は、他者に対しては漏れなくその司法権を適用しながら、自分自身はつねにそれを回避する方法を見つけ出すものである。

地政学でよくいわれるように、そこそこの権力を持つ国は、国家の規模や勢力とは関係なく、あらゆる国に対して公正で公平な国際法にもとづいて国家間の関係を考えようとする。ところが、強国が国際関係の基礎とするのは、自己の権力やその地政学的重要性や影響力なのである。

それとは別に、力の行使の合法性はつねに大きな問題として浮上し、まるで善と悪がせめぎあう芝居のように議論される。問題は、対立する当事者のいずれもが、自分の側に善や正義や道理があり、相手は間違っていて非合法で邪悪な行動をとると考えていることだ。つまり戦争は、互いに自分が正しいと考える似た者同士の争いなのである。

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