コロナ禍、必要なのは笑いと人情ではないか。 
そんなときに絶対的な効果を発揮するのは落語である。
しかし寄席に足を運ぶには敷居が高いという人もいるかもしれない。そんな方は、マンガの世界から入ってはいかがだろうか。落語ファンからも一目置かれている落語マンガの傑作が、雲田はるこさんによる漫画『昭和元禄落語心中』(ITANコミックス/講談社)だ。アニメや岡田将生さん主演によるNHKドラマも人気を博した本作、2021年1月31日には「昭和元禄落語心中寄席」と題してリアルの寄席とのコラボレーションをすることも決定した。 

落語協会HPより

コロナ禍でオンラインでも視聴可能になったというこのコラボを記念して、日本で唯一の演芸専門誌「東京かわら版」編集長の佐藤友美さんに、自身がまったく落語を聞いていなかった時代から振り返り、改めて落語の魅力やマンガとリアル落語を楽しむ秘訣を教えていただいた。

学生時代に興味本位でくぐった寄席 

寄席ってのはあったけぇんだよ 
オイラみてぇな世界一のバカでも受け入れてくれるところなんだ 
どんなにマズくてもいまをキチッと生きてりゃあ 
スッと笑って認めてくれる 
落語の世界は駄目な奴にだってちゃんと優しいんだ 

(「昭和元禄落語心中」1巻より) 

(c)雲田はるこ/講談社『昭和元禄落語心中』1巻より

落語というものが、この世にあるということは知っていた。学生時代、以前通りかかったときに気になっていた新宿末広亭の建物に友人と学割を使ってこわごわ入ってみたのがはじまりだった。 ぶら下がる赤い提灯、畳敷きの桟敷、古ぼけた椅子(現在はシネコン並に綺麗です)、売店では瓶に入ったコーラを売っている。いっぺんで大好きになってしまった。 

私の最強で最大の出会いは、初めて行った寄席で、古今亭志ん朝(2001年逝去)を見たことだろうか。早いテンポの美しい口調、華があって無駄のない所作……惹き込まれ、気付いたら終わっていた。 カ、カッコイイィ… 手ぬぐいと扇子と身ひとつだけで森羅万象を描ける落語って……もしかしてすごい芸能なのでは?  芸能の中で最もシンプルな形態、なのに奥深いところを突いてくる……落語って洗練の極みでは?  ハマってしまった。

それまで私がいくライブと言えば岡村靖幸や真心ブラザーズだったし、寄席よりも断然ライブだった。しかし話術に引き込まれるさまは、最高の歌を聞くのと同じくらいエキサイティングだったのだ。 落語家から発せられる言葉で、聞き手は頭の中に独自の物語世界を紡いでいく、いわば観客が能動的にならざるをえない娯楽だ。けっこう疲れる。でも面白い。その面白さは小説を読むことに似ている。

落語を聴くということは、脳内に像を描くから、自分の人生経験がものをいう。いろんな経験をしていたり、複雑な感情をたくさん抱えている人こそ、厚みのある像が描け、より落語を味わえるのではないか。だからこそ、昔、落語は「お年寄りの娯楽」だと思われていたのかもしれないと思った。誰でも楽しめるけれど、経験豊富な大人の方が享受できるものが多いと今も思っている。