オーストラリアは政治が安定したリベラルな国だからダブルネームの使用で投獄されたり犯罪に巻き込まれたりするケースはないかもしれない。けれどもEUのGDPR(一般データ保護規則)など、個人認証厳格化の動きは世界中で進んでいる。だからこそ菊地さんはこう問いかける。

「政治犯の取締りが厳しい国や紛争地だったら、どうなっていたでしょう? 国によっては大問題に発展する可能性があります。海外で活躍する日本人がたくさんいるこのご時世、日本は国としてきちんと考えてくれないと困ります」(菊地さん、以下同)

写真はイメージです〔PHOTO〕iStock

日本の夫婦同姓は制度上、男女どちらの姓でも名乗ることができるが、2017年に厚生省労働省が発表した統計によると、2015年の婚姻数のうち96%が夫姓、4%が妻姓を名乗っており(※3)、男性の姓を名乗ることが社会規範となっているのだ。96%という数字は1980年の98.7%から比べるとわずかに減少しているが、国連は、この圧倒的な男女差を女性差別、そして個人のアイデンティティである姓を奪うことを人権侵害だと捉えており、2003年、2009年、2016年と3度にわたり、夫婦同姓強制の廃止を勧告している。これに対し、日本は何のアクションも起こしていない。

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夫婦同姓の強制で国外への頭脳流出が進む

ジェンダーの研究を行う菊地さんが選択的夫婦別姓について意識し始めたのは、両親の離婚がきっかけだったという。当時、まだ菊地さんが多感な年頃だったため、母親は旧姓に戻るべきか悩み、最終的に断念したのだ。菊地さんの母親は、婚氏続称(離婚の際に称していた氏を称する届)の手続きを取ったのである。

つまり、母は私のために自分のアイデンティティをあきらめなければならなかった。これをきっかけに、夫婦同姓強制に対する問題意識が芽生えたような気がします」と当時を振り返る菊地さん。

「海外で旧姓を名乗ってトラブルに巻き込まれたりしないだろうか? この書類を書くときはどっちの姓を使えばいいのだろうか? などという思考プロセスは、日本国籍を捨ててオーストラリア国籍を取得し、この姓の問題から解放されたい、と考えてしまうぐらいネガティブでストレスフル。

女性が自分のアイデンティティと能力を発揮できる社会に日本が変わらなければ、日本から国外への頭脳流出は今後ますます進むと思います