「生物学的な心地良さ」とは何か?「進化論」で考えてみた1つの答え

最新科学で人生観をアップデートする
朱戸 アオ,佐倉 統 プロフィール

何が王道かを知る

朱戸 『科学とはなにか』を拝見して、科学の歴史も面白かったんです。私たちは、中世の時代から突然、科学革命が起こって今のスタイルが出てきたと思いがちですが、ロマン主義がだんだんと科学へと結びついていったという話に興味をもちました。この対談の前編で、佐倉さんは「論文も今のスタイルでいいのか」とご指摘されましたが、研究のスタイルもつねに変化していくものなんですね。

佐倉 科学そのものも科学のしくみも、歴史的な背景をふまえて別の見方をすればじつはこういうことも言える、ということだと思います。もちろん今の正統的な科学のやり方にも必然性があってそうなっているので、そのどちらも大事、ということなんでしょうね。

朱戸 科学の入り口でいちばん難しいのは、その世界の「王道」はどこなのかを探ることだと思っています。じつは異端なんだけど売れている本から読みはじめてしまうと、途中で「あれっ?」ということになる。権威主義になるのはよくないですけど、ゼロから勉強を始めて王道の説を探すのは容易ではありません。

佐倉 何が王道かを知ることは大事ですよね。外側の世界からそれが見えにくいのは、専門家の閉鎖的な体質と同根だと思います。専門家が内輪でやっているから評価されているのではないかと疑われるのは、どの世界にもある話です。一般の人、外の世界の人に、わかりやすくその評価を伝えるのは難しいですね。

【写真】佐倉 統さん佐倉 統さん

「確定していない事実」を楽しむ

佐倉 前編では、「答えがわからない」ことの面白さという話題が出ました。それに似た話としてもう1つ、「正しいか/間違っているか」という点でいうと、じつは最先端の科学では、「事実自体がまだ確定していない」こともよくあります。

さらに、たとえ科学的な事実が確定していて、科学的に正しいかどうかが白黒ついていたとしても、それを社会的に見たときにはどうなのか、といった面も考えなければいけません。それこそ、新型コロナのような感染症対策において、経済的な面を抜きにして、科学の話だけで押し通すことが正しいのかどうか、という問題もありますから。

朱戸 正しいかそうでないかの判断は、難しいですよね。私は美大の建築科に通っていたのですが、当時の日本建築史の先生が伊勢神宮の「式年遷宮(しきねんせんぐう)」について、定説とご自身の見解とを分けて教えてくれたことが印象に残っています。定説はこうだけど、私の研究ではこうだと考えられる、と。王道的な見方と自分独自の研究とを、両方ともしっかり教えてくれるのは、面白かったですね。

伊勢神宮(内宮)の社殿の外観(左)と、前々回にあたる1973年の式年遷宮のようす。直近の遷宮は、2013年におこなわれている photo by kodansha photo archive

佐倉 王道を身につけていないと型を崩すこともできないですよね。ピカソも若い頃の作品を見ると、正統的な技法を完璧に身につけていてものすごく上手で驚きます。王道の絵をマスターしたからこそ、その後に独自の抽象画を描けた。

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