正しくないものを絶対許さない人々と国家…これは「日本の近未来」なのか

桐野夏生さんインタビュー
石戸 諭 プロフィール

何かの対策に入り込んでくる「別の何か」

通報制度で思い出したことがある。「自粛警察」活動を続ける若者を取材したときのことだ。彼を支えていたのは、高い衛生観念と規範意識だった。彼は規範から外れた存在が許せないという、彼なりの正義感を持ってパチンコ店に並ぶ客に罵声を浴びせた。『日没』で通報した読者も作家を貶めてやろうという意識はないのだろう。

《小説の世界にあるヘイトスピーチ法のように、ヘイトスピーチを規制するというのは一見正しいこととして進みます。規制によって、対策が進むという効果はあるでしょう。しかし、いったい誰が、何をヘイトスピーチだと判断するのかという問題は残ります。

ヘイトスピーチを取り締まるという建前で、マッツのような表現が規制されることは今の社会でも大いにあり得ると思うのです。

感染症対策も同じような負の効果があるかもしれない。例えば、感染症を対策するという名目で、ITシステムによる監視社会化が進んでいく可能性がある。本当にそれでいいのかを考えないといけません。

何かの対策を進めるときには、必ず別の何かが入り込んでくる。そこで足元をすくわれる可能性は大いにあります。》

 

マッツは決して高邁な人物ではない。尋問に対して反論もするが、すぐに屈してしまいそうになったり、ブンリン側が仕掛けた罠に簡単に引っかかったりもする。何かの座談会で政権批判をしたこともあった、という描写もあるが、社会に何かを訴えるために小説を書いているわけでもなく、何よりも自分のために書いている。

《マッツはかなり下世話な人間という設定なのですが、いろいろ頭にきたことには反論していますよね。そこは立派だなと思いますよ。この世界は牧歌的ではないですから、どこにいても逃れることはできないのです。》

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