脳がないのにクラゲは眠る! 「睡眠」の常識を変える最新研究を紹介

謎に包まれた「睡眠」という現象
熊谷 玲美 プロフィール

脳より前に、睡眠があった

脳がないのに眠る動物は、サカサクラゲの他にもいる。九州大学などの研究チームは2020年に発表された研究で、ヒドラが眠ることを明らかにした※5

ヒドラの顕微鏡写真


ヒドラはクラゲと同じ刺胞動物で、やはり脳がない。淡水に住み、池や田んぼの水草や石に付着している※6。体長1cm程度と小さいが、触手から毒針(刺胞)を発射してミジンコなどを捕らえる。

細かく刻んでも、それぞれのかけらが再生してヒドラに戻るという驚異の再生能力を持つ。再生能力のおかげで老化しないので、「不死の生物」といわれることもある(もちろん、魚などに食べられれば死ぬ)。

繁殖力が強く、魚の飼育水槽で増えると稚魚などを食べてしまうので、やっかいもの扱いだ。実際、ヒドラという名は、ギリシャ神話の怪物「ヒュドラ」に由来する。いくら切っても再生する九つの頭を持ち、口から毒を吐くヒュドラは、ヘラクレスによってようやく退治された。

ヒュドラを退治するヘラクレスを描いた、紀元前6世紀の壺 Photo by Wolfgang Sauber CC BY-SA 3.0

そんなヒドラにも、サカサクラゲと同じ行動パターンの観察から、睡眠があることが確かめられた。「不死の怪物」も眠るのである。

このヒドラの研究では、脳がない動物の睡眠メカニズムにも切り込んだ。人間で睡眠をうながす作用があるメラトニンやGABAといった物質を与えると、ヒドラでも同じ効果があった。

またヒドラには体内時計をつかさどる遺伝子はないが、睡眠をコントロールする遺伝子があることなどがわかった。こうしたことから、動物では脳が進化するよりも前に、睡眠のメカニズムができあがっていた可能性があるという。

脳を持たないヒドラが眠る理由はまだわからない。ただ、ヒドラの睡眠をさまたげると細胞分裂が抑えられたことから、研究チームは体の維持や成長に睡眠が重要ではないかと考えている※7

眠気覚ましのコーヒーを飲みながら原稿を書く合間に、またモントレーベイ水族館のクラゲのライブ配信を見てみる。クラゲの動きはあいかわらずゆっくりで、眠っているようにも、目覚めているようにも見えた。

【参考資料】
※1 https://twitter.com/sumida_aquarium/status/1284068576945725441
※2 https://twitter.com/enosui_com/status/1289893715939430400
※3 https://www.caltech.edu/about/news/surprising-ancient-behavior-jellyfish-79701
※4 https://www.cell.com/current-biology/comments/S0960-9822(17)31023-0
※5 https://www.kyushu-u.ac.jp/ja/researches/view/504
※6 http://www.higashiyama.city.nagoya.jp/blog/2018/02/post-3561.html
※7 https://www.sci.kyushu-u.ac.jp/koho/qrinews/qrinews_201208.html

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