脳がないのにクラゲは眠る! 「睡眠」の常識を変える最新研究を紹介

謎に包まれた「睡眠」という現象
熊谷 玲美 プロフィール

「眠っている」の条件とは

私たち人間を含めた動物の睡眠は、脳とむすびつけて考えられることが多い。眠ることで、体を休めるだけでなく、脳にある記憶や感情を整理しているらしい。

ところがクラゲには脳がない。神経細胞が体全体に張り巡らされていて、脳のような中枢神経系はない。サカサクラゲは、脳がなくても眠ることがわかった最初の動物だ。

脳がないクラゲの場合、人間や実験用のマウスのように、脳波を使って睡眠を調べるわけにはいかない。

そこで研究チームは、サカサクラゲの行動パターンから睡眠のような状態にあるかどうかを判断した※4。「眠っている」と判断できる条件のひとつが、起きているときなら反応する刺激を与えても、すぐには反応しないことだ。

それを確かめる実験がおもしろい。研究チームは水槽内の台にサカサクラゲを載せた。そしてその台を急に下方に移動させた。すると、起きているサカサクラゲはすぐに底に向かって泳ぎ出す。浮かんでいるより、水底にいるほうを好むからだ。

サカサクラゲが眠っているかどうかを確かめる実験のひとつ。Nath et al. 2017

しかし、眠っているサカサクラゲは、最大で5分ほど水中を漂い、やがて「目を覚まして」泳いでいくというのだ。私たち人間が、ぐっすり寝ているところを急に起こされて、ぼんやりしているようなものだろうか。

もうひとつの「眠っている」かどうかの判断材料が「ホメオスタシス」という、生物が体内の環境を一定に保とうとする性質だ。睡眠のホメオスタシスでは、疲れると眠くなり、体を休ませようとする。

そこで研究チームは、水槽の水を20分おきに10秒間振動させて、サカサクラゲの睡眠をさまたげた。するとその後、脈打つような動きが多くなるはずの時間に、動きが少なくなった。ホメオスタシスの作用で、足りない睡眠をおぎなおうとしたのだ。

学問的に重要な研究であるのはもちろんだが、クラゲも急に起こされてぼんやりしたり、「寝不足」気味になったりすると考えると、なんだかほのぼのとした気持ちになる。

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