公教育が始まって、約150年。いま、その“構造転換”が勢いよく起こり始めています。
山口裕也氏の新著『教育は変えられる』(講談社現代新書)は、この「公教育の構造転換」の明確なビジョンとロードマップを、重厚かつ全方位的に描き出した、きわめて読み応えのある名著です。
重厚、というのは、本書は、単に流行を追うようなものではなく、「そもそも公教育は何のためにあるのか」という、長い哲学の歴史が明らかにした原理を土台に編み上げられているからです。
それはつまり、それぞれの置かれた立場からお互いを批判し合ってしまいがちな——つまり党派争いが起こってしまいやすい——教育界にあって、一段深い次元での教育論が展開されているということです。
また全方位的、というのは、本書の扱う範囲が、
など、「教育を変える」ために必要なあらゆる視座を網羅しているからです。
イノベーション研究で有名なクレイトン・クリステンセンの言葉を借りれば、教育は「相互依存的アーキテクチャ」です。つまり、たとえばカリキュラムを変えようと思ったら、教科書も教員養成も教員研修のあり方も、何もかもを同時に変えなければなりません。だから、教育はそう簡単には変わらないのです。
しかし逆に言えば、それらすべてを、何を目指して、どのように変えていくべきか、変えていくことができるかのコンセンサスが取れれば、システム全体を大きく変えていくことができるということです。
それはいかに可能か? その設計図を、明快に示してくれたのが本書なのです。
本書に説得力を与えている一つの要因は、著者の山口氏が、長年、東京都杉並区教育委員会の主任研究員として、杉並の教育をじっさいに構想し、変えてきた人である点にあります。
つまり本書で書かれてある内容は、机上の空論ではなく、山口氏がじっさいに実現し、検証を重ね、そしてさらに先へ進めようとしている、きわめてアクチュアルなものだということです。
一自治体の教育行政官ということもあって、これまで山口氏は、あまり表立って教育界全体に提言することはありませんでした。しかしここに来て、杉並の教育を支える考え方やその実現方法を惜しみなく披露してくれたことも、本書の魅力の一つと言えるでしょう。