2021.01.21
# 物性

人類の物質観を革新する「トポロジカル物質」、そのカギは時間や空間の反転にあり

バーチャル空間で物質を観る
長谷川 修司

「運動量空間」というバーチャル空間

たとえば物質の中にある、膨大な数の電子の振る舞いを表現するにはどうしたらいいのでしょうか。金属の場合、1立方センチメートルのなかには約10の23乗(=1兆×1000億、1京×1000万)個というとんでもなく多くの電子が入っていて、それらがワサワサと絶えず動き回っています。

高校の化学の授業で習った「アボガドロ数」6.022×10の23乗を覚えているでしょうか。手にとれる大きさの物質には、だいたいアボガドロ数程度の電子(と原子)が詰まっています。

1個の電子だけなら、その動きを記述するのは簡単です。その電子がある向きにある速さで動いているということを矢印(ベクトル)で表現すればいいわけです。そのベクトルの始点が、その電子が現在いる場所を示します。そして速さに応じてベクトルの長さを決めます。

電子が10個や100個になっても、それぞれの電子の動きを同じようにベクトルで表現することが可能でしょう(図2(a))。しかし、アボガドロ数個の電子となると、いちいち個々の電子の動きを、現在の位置を始点とするベクトルで表記するのはほとんど不可能ですし、たとえできたとしても意味がないでしょう。さあ、どうしたらいいのでしょうか。

図2

それぞれの電子が現在どの位置にいるか、という情報は思い切って捨てることにしましょう。金属内の自由電子は金属内で一様に散らばっていると考えられるので、それぞれの電子が今どこにいるかという情報はあまり重要ではないからです。

そして、電子の運動を表すすべてのベクトルの始点を一点に集めます(図2(b))。そうすると、ハリネズミのように、矢印が一点からあらゆる方向に外向きに描かれます。ベクトルの長さもさまざまです。この矢印がアボガドロ数個ある図を想像してください。

図2(a)では、物質内での電子の現在の位置と速度を表しているので、物質の縦、横、高さ、つまり、(x, y, z)座標の空間での表現になっています。この空間は、物差しで実際に長さを測れる空間なので、「実空間」と呼ばれます。私たちが住んでいる空間です。

一方、図2(b)のように、一点を始点とする速度ベクトルで電子の動きを表すと、それぞれの電子の位置の情報は表現されていませんが、速度の情報(速さと向き)は正確に表されています。その縦、横、高さの軸は、それぞれ速度ベクトル→Vのx方向の成分Vx、y方向の成分Vy、z方向の成分Vzです。

ベクトルの長さは、物差しで測れる「長さ」ではなく、速さを表しているので、この図2(b)は、図2(a)のような実空間での表現ではありません。座標軸が速度を表す(Vx,Vy,Vz)の軸になっていますので、「速度空間」、あるいは「運動量空間」と呼ばれます。一種のバーチャル空間です。

「運動量空間」という概念を理解していただけたでしょうか? 今月刊行された『トポロジカル物質とは何か』では、トポロジカル物質を理解してもらえるよう、このバーチャル空間をしっかり説明しました。クロワッサンとドーナツのアナロジーではなく、物理的な本質を理解したい方はぜひ、本書を手に取っていただければ幸いです。

(この記事は『トポロジカル物質とは何か』の内容を再編集したものです)

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